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2007/02/04
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カテゴリ:京極夏彦
京極堂シリーズ本編第5作である,

京極夏彦の「絡新婦の理」(1996)

を読んだ(再読)。今回は,途中からネタバレだらけになります。

箱根の事件(「鉄鼠の檻」)に木場が出てこなくて残念だったが,その頃彼は「左門町婦人目潰し殺人事件」に取り組んでいたのだね。

ということで,今回はお気に入りの木場刑事が最初から登場して,活躍の場も多く,大満足(笑)
多田マキ,高橋志摩子,織作葵,呉美由紀たちから「ふつうの警官が聞けない」話を聞きだすところで,本領を発揮していた。
千葉県本部の荒野警部を殴ってしまったところでもだけれど……(笑)
木場が上司を上司と思わないようになった一因には,戦時中に直接の上官だった関口のだらしなさもあったりして……(冗談です,笑)

榎木津も大活躍で,杉浦隆夫を2度捕らえ,平野祐吉も榎木津と木場の連携プレイをきっかけに捕まった。さすがの彼も出門耕作と葵との「ダンス」に跳ね飛ばされてしまうが,この場面は笑えたなぁ。
あいかわらずの榎木津節だが,呉美由紀とのやりとりには心なごむものがあり,「探偵さん」と「女学生」の呼びかけあいがなかなかよかった。

元国家警察神奈川県本部の刑事である益田も再登場して,榎木津の探偵助手に!!
「薔薇十字探偵社」が「探偵社」であるための貴重な人材。
「神保町」だけを頼りに榎木津のもとを訪れるとは,益田もなかなか度胸がある。ダメだったら,ジャズバンドに入ろうという発想も,「人探し」の採用試験をその日のうちにクリアできるツキも,常連キャラクター向けだ。彼にとっては,不幸かもしれないが(笑)

「鉄鼠」が「男だらけ」だったからなのか,今回は美女がたくさん登場した(笑)
映像化することがあれば,聖ベルナール女学院に「セリフなし」の美少女中高生をたくさんそろえてほしい(笑)

この巻で登場した杉浦美江は百器徒然袋「雨」の「瓶長」に,織作家の家政婦奈美木セツは「風」の「五徳猫」に再登場する。


閑話休題(というか,以下ネタバレ

今回の事件は,猟奇連続殺人,黒魔術殺人,復讐などの様々な相を見せながら,それが結局は蜘蛛の糸に絡めとられていく1つの事件であるところに特徴がある。

しかも,最後にはユダヤ教の意匠を借りてまで女系家族を乗っ取ろうとした男の執念と,その男の血を根絶やしにして「家」を取り戻そうとした老女の執念の対立という構図で収束しかけるのだが,実は絡新婦の正体である織作茜全く個人的な犯罪であったという点が結末をさらに印象深いものにしている。

多くの「死」があった。最終章京極堂,鳥口,関口の会話の場で「病死も含めれば15人も亡くなっている」とあるが,おそらく関口は五百子刀自の死をカウントしていなかったようで,実際には16人になる。

ここでは,「死」とそれが犯人にとって何だったのかを整理してみる。
なお,事件の時間的経緯をフリーページのタイムテーブルにまとめたので,それも参考にしてください(事件の様相を時間的経過から再確認できます)。

織幡家の死
冒頭で「蜘蛛」が「-どこにも居場所がない-だから居場所を獲得しようと……」とあることから,織作家の人々は蜘蛛から「抹殺」されることが必然だった。

雄之介……毒殺(2月)。織作家当主として,ある意味で第一の抹殺対象。蜘蛛の父親でもない。
本田・麻田事件後に是亮の横領が発覚し,是亮が売春の事実を告げた翌日の死だが,横領や売春に対する雄之介の対応を防ぐためというより,当初からそのタイミングで殺す予定だったと考えられる。

真佐子……出門の鎌で彼を殺した後,自らに鎌を突き立てて死亡。蜘蛛にとってある意味で第一の排除対象であったが,あのタイミングでの死を考えていたかは不明。
狂うのを待って毒殺ということもあり得た。

紫……毒殺(前年4月)。彼女が先天的疾患で長く生きられないことを知らなかった蜘蛛にとって,織作家の一員だからというより,破談になったものの紫と柴田勇二との縁談話がきっかけになったと思われる。

葵……出門耕作(葵の父)が絞殺。葵が雄之介の後継者と決まった翌日の死だが,彼女のそのような資質,女権拡張運動における彼女の活躍が,蜘蛛にとって「排除すべきもの」だった。ちなみに,セツが見つけた雄之介の手記は蜘蛛によるでっちあげ。

碧……平野祐吉による刺殺。紫亡き後,碧の世話をしていたのは茜だったと思われる。碧に鍵を渡し,いろいろ吹き込んだのも,葵の場合と違い五百子ではなく,茜であった可能性が高いという意味で,この死には「口封じ」の意味もある。
また,雄之介の子供という碧の立場も抹殺対象として条件を十分満たしていたと考えられる。

五百子……毒殺(4月)。傀儡としての役割を終えた,「呪」としての「織作」の抹殺。ちなみに,冒頭の会話の「この次にあなたを束縛するもの(を排除する)」とは,彼女の曾孫である柴田勇二のことだろう。

是亮……杉浦隆夫による絞殺。是亮と茜の結婚は,雄之介による強要と考えられ,蜘蛛は是亮が雄之介の子供であることを知っていた。
是亮が会社をつぶしたのも,裏に蜘蛛がいたのかと思ったが,茜が秘書として通ったのが左遷先の会社であったことから,こちらは単に是亮の無能のせいだったようだ。

出門耕作……自分の持ち込んだ鎌によって,真佐子に殺される。蜘蛛にとって彼を殺す積極的動機はなさそうだ。

文字数の関係で,ベルナール学院の死(元)娼婦たちの死については,その2をごらんください。


時代・場所,登場人物,妖怪などをフリーページの京極夏彦メモ(絡新婦の理)に簡単にまとめてありますので,ごらんください。
京極夏彦の他作品についての日記は,フリーページ 読了本(日本) (京極夏彦)からごらんください。


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Last updated  2007/09/24 09:25:18 PM
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