「南海の金鈴」の日記(
→こちらから)で,
これを機に,シリーズ初期作品から読んでみる気になってしまった。
と書いたのだが,すっかりはまってしまい早速読み始めた。今回は,
ロバート・ファン・ヒューリックの「中国迷路殺人事件」
(The Chinese Maze Murders,1951or1956)
について。
シリーズ第1作(未訳の,ちょっと性質が違うものを入れると第2作)ではあるが,年代記的にみると
最初ではない。
このシリーズは主人公の狄仁傑(ディーレンチエ)が県知事として中国各地に赴任し,そこで起こる事件を「判事」として解決していくというもので,赴任先は
平来→漢源→蒲陽→蘭房→北州
である。
「迷路」は狄仁傑(ディーレンチエ)が40歳のときに大唐帝国極西の辺境県蘭房(ランファン)に赴任した直後の話であり,初期の5作品の中でも年代記的には
4番目,それ以降の作品も含めると(蒲陽時代を扱った作品が多いので)かなりあとになる。
しかし,このシリーズを読んでみようという人には,そしてもちろんシリーズのどれかを読んだことがある人にも,この作品を
最初にあるいは「なるべく早い時期」に読んでおくことをお勧めしたい(その理由と作品の書き出し部分については
→「ディー判事シリーズについて」をごらんください)。
670年。
任地に着く直前に襲われ,とらえた賊とともにの蘭房(ランファン)に入ったディー判事一行を待っていたのは,前知事からの引継ぎと歓迎の宴ではなく,さびれた市と人々の冷たい視線,そして牢番長しかいない蜘蛛の巣だらけの政庁だった。
その背景にはチェンモウの圧政があり,ディー判事はその対応を迫られることになる。
裁判の過程でそれまでチェンがやったと思われた「パン知事殺害」や「ファンの娘の失踪」にチェンが直接関わっていたのではなく,背後に黒幕がいることがわかるが,裁判途中でチェンモウが死んでしまう。
ディー判事は次の3つの事件を同時に抱えながら,黒幕の正体といまだに進行している陰謀の謎を解いていくことになる。
ディン将軍殺人事件→退役将軍が還暦の祝いの夜,密室の中で殺される。
アン対アンの訴訟→10年程前,元将軍アンショウジェンは死に際して若い第二夫人とその息子に自筆の画巻を遺産として与え,残りが長子のものとなるという遺言を残した。夫の死後長子のアンキーによって家を追い出されたアン夫人はその絵の謎を解くことをディー判事に求める。
ファンの娘の失踪事件→鍛冶屋のファン(ディー判事赴任後は巡査長)の娘が行方不明になる。犯人はチェンモウと思われていたのだが……
もちろん,以上の事件がそれぞれバラバラに起こるのではない!! ほぼ同時に,人間関係も事件のつながりも複雑に絡まりながら起こるところがこの作品の醍醐味である。
さらに,ディン将軍密室殺人事件では,
実際の殺人のほかに,未遂事件まで同時に起こる(実はこっちにひっかかってしまい真犯人を見抜けなかった,笑),というおまけまであり,サービス満点。
このシリーズではディー判事とともに各地に赴任する4人の副官(中央から任命された判事が連れてくる副官は現地採用の県の役人(書記,巡査など)より上位にたつ)が重要な役割を果たす。
知事と副官たち
狄仁傑(ディーレンチエ)
山西省太原(タイユアン)の名門の出身。名裁判で知られ「ディー判事」ともよばれる。
妻3人と子供たちがいて,妻子も赴任先に同行する。
洪亮(ホンリャン)
腹心の相談役で,政庁では警部に任命され,洪(ホン)警部または警部と呼ばれる。
少年の頃からディー判事の生家に仕え,60歳を越えている。
馬栄(マーロン)
もと緑林兄弟(野盗)。体格がよい。酒好き女に惚れっぽい。
喬泰(チャオタイ)
もと緑林兄弟。体格がよい。実は,
ディー将軍の裏切りで全滅させられた第六大隊(800)人の隊長8人のうちの一人で,唯一の生存者。将軍を殺すため義賊に加わって国中を回っていたが,今回の事件で将軍は殺されていた。事件の決着後,
判事から軍務に戻ることも勧められるが,判事のもとにとどまることを表明し,判事も喜んだ。
陶侃(タオガン)
もと詐欺師。貧相な猫背。変装の名人。
作家本人の手による挿画やランファン(架空の都市)の地図もあり,迷路もあり,道教の隠者も登場と「内容+α」は盛りだくさんで読んでいて全く飽きがこない。
これまで,何冊か読んで「地味だなあ」と思っていた印象を一変させる作品だった。
なお,著者名や作中の人名の表記は最近のハヤカワポケットミステリ版に合わせてあります。
時代,場所,登場人物などをフリーページのディー判事メモに簡単にまとめてありますので,ごらんください。
ロバート・ファン・ヒューリックの他作品についての日記は,フリーページ 読了本(海外) (ロバート・ファン・ヒューリック)からごらんください。
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