高橋健太郎のOTO-TOY-LAB ――ハイレゾ/PCオーディオ研究室――
【第8回】OPPO Digital「HA-1」
OPPO Digitalは2004年に米カリフォルニア州のシリコン・ヴァレーで設立された会社だ。その存在を知ったのは数年前だったか。BDP-95というユニヴァーサル・プレイヤーの評判がやけに良いので、気になり出したのだった。
BDP-95はその後、都内の事務所で少しの間、試用する機会を得た。実のところ、僕は映像やサラウンド再生も扱うユニヴァーサル・プレイヤーのオーディオの部分には、それほどの期待はしない人間だった。自宅でLINNのUNIDISK1.1という百数十万円もするユニヴァーサル・プレイヤーを使っていたこともあるが、CDやSACDの再生能力に関して言えば、オーディオ専用機に分がある、という印象を得ていたからだ。だから、十万円代で買えるユニヴァーサル・プレイヤーであるBDP-95のオーディオ再生能力も、評判が良いとはいえ、価格相応ではないかとは思っていた。
だが、繋いで音を出した瞬間に笑ってしまった。すっとローエンドまで伸びた低音とクリアーな音場がいともたやすく描き出されたからだ。スピーカーは僕の愛用するATC SCM10だったのだが、あたかも、スピーカーの再生レンジそのものが広がったかのようだった。このユニヴァーサル・プレイヤーはCDの再生能力だけに限っても、2倍、3倍の価格のSACDプレイヤーを越えているかもしれない、と思った。BDP-95はESS SABREのES9018というDACチップをいちはやく使った製品だったので、以来、ES9018というチップにも、強い興味を惹かれるようになった。
BDP-95はその後、BDP-105へと進化。日本仕様のBD-105JP、BD-105DJPが市販されている。BD-105JPではUSB DAC機能が加わり、BD-105DJPでは5.6MHzのDSDまでネイティヴ再生するようになった。十万円台ながら、ブルーレイ、DVD、SACD、CDなどを再生し、USB DAC機能もあり、さらにはネットワーク・プレイヤーにもなる。しかも、驚異の音質まで誇るのだから、ロングセラーになっているのも頷ける。
DAC、プリアンプとしても使えるヘッドフォン・アンプ
シリコン・ヴァレーに拠を置く会社らしく、OPPOの製品は非常にコンピューター・ライクでもある。BDPシリーズにしても、多機能なのは汎用のコンピューターをベースにしているからで、その分、高級オーディオ製品にあるようなデザイン性はないし、端子類やインシュレーターなども、ごく普通のものが使われている。そういう意味では、作りはそっけない。ただ、デジタルな回路構成だけでなく、アナログな部分にもこだわりを注いでいるから、音が良いのだろう。
今回、テストしたHA-1は、そんなOPPOがオーディオにフォーカスして作り上げたヘッドフォン・アンプだ。HA-1という呼称や、バランスアウトのヘッドフォン端子まで備えていることから、ヘッドフォン・アンプと位置づけられているのは間違いないが、そこはOPPOの製品である。当然のごとく、USB DAC機能は搭載している。また、プリアンプとしても、バランスアウトとRCAアウトを備えているので、パワーアンプやパワード・スピーカーに接続して、使うことができる。Bluetooth入力、iOSデヴァイスからの入力なども備えているのも、織り込める機能はどんどん織り込んでいくOPPOらしい。
HA-1のUSB DAC部はBDP-95〜BDP-105と同じく、ES9018を使用したもので、32bit/384kHzまでのPCM、11.2MHzまでのDSDに対応する。PCとのUSB接続はDoPを利用。MACの場合はただUSBケーブルを接続するだけで音が出る。PCMのデジタル入力はAES/EBU、COAXIALなど4系統、アナログ入力も2系統あるので、プリアンプとしての使い勝手も悪くない。アナログ・アンプ部はフルバランスでディスクリートのA級アンプだ。ヴォリュームもアナログ・ヴォリュームで、リモコン操作の場合はモーターで駆動する。
電源には大型のトロイダル・トランスを使用。重量は5.9キロ。ヘッドフォン・アンプとはいえ、ずしりと重いし、A級アンプだから発熱もする。このへんの物量投入ぶりは僕好みだが、ただ、デスクトップに置くにはちょっとヘヴィー過ぎるかもしれない。
ところで、この連載の過去の回をチェックしてきた方はお気づきかもしれないが、僕はヘッドフォンに関しては、それほどマニアックなこだわりを持つ人間ではない。ヘッドフォンやヘッドフォン・アンプを数種類、所有してはいるが、音楽は基本的にスピーカーで聴きたい派である。そのために、夜中でも音が出せる住環境を手に入れている。ヘッドフォンを使うのはほとんどの場合、仕事で必要な時であり、耳を酷使したくないので、長時間は使わない。だから、それほど高価なヘッドフォンを所有してもいない。
僕が最もよく使うヘッドフォンはソニーのMDR-CD900STとベイヤーのDT-250だ。どちらもモニターが目的だが、MDR-CD900STは録音の時に使用する。声や楽器のピッチや細かいノイズなどを録音時に聴き取るには、レコーディング・スタジオの定番であるMDR-CD900STに勝るものはない。しかし、MDR-CD900STは音が耳に刺さりやすく、疲れるヘッドフォンでもある。音楽を楽しむには、まったく向いていない。
ベイヤーのDT-250はミックスなどの音作りの作業の時に使う。誇張感のない実直な音がするヘッドフォンで、こちらの方が耳も疲れず、リスニングは快適だ。とはいえ、あくまでモニター用なので、何を聴いても良く聴こえるようなヘッドフォンでは、逆に困ってしまう。ノイズ、歪み、位相などの問題がきちんと聴き取れるものでないと、モニター用には使えない。DT-250はそういう意味で、正確なモニターができる確認用のヘッドフォンだ。
モニター用に使うことはあまりないが、音楽を楽しく聴けるという点では、ゼンハイザーのヘッドフォンが昔からのお気に入りだ。現在はオープン・エアー型のHD-600と密閉型のHD-265を持っている。後者は市販のままだと低音がだぶつく欠点があったのだが、イヤーパッドをHD580用のものに変えるなどしたら、驚くほど良いバランスになった。ボディがプラスチック製で軽く、装着しても圧迫感がないし、密閉型なので、どんな環境でも使える。この2機種に限らず、ゼンハイザーのヘッドフォンは音が近過ぎず、空間を感じさせる鳴り方をするところが好きだ。
しかし、昨今ははるかに高価なヘッドフォンを幾つも所有している一般の人達も多くいることだろう。春と秋の「ヘッドフォン祭」に足を運ぶと、そうしたマニアの熱気に圧倒されたりもする。僕はそこまでヘッドフォンを使う訳ではないし、その意味では、実売価格が十数万円のヘッドフォン・アンプであるHA-1は、ちょっとオーバースペックな気もする。あるいは、購入するとしたら、ヘッドフォン・アンプとして、というよりは、DACプリアンプとしての使用を前提としそうだ。そこでまずは、リヴィングのステレオ・セットの中に組み入れて、スピーカーでの再生環境からテストしてみることにした。
プリアンプとしてのHA-1
我が家のリヴィングにはCDプレイヤーのDCS P8i MK2とパワード・スピーカーのATC SCM100ASLがある。この間に、プリアンプとして、HA-1を繋いでみる。ATC SCM100ASLとはXRL接続。DCS P8i MK2とHA-1の間は、アナログのRCAケーブルとCOAXIALでのデジタル接続の両方でセットアップした。
DCS P8i MK2はデジタル・ヴォリュームを備えているので、実はATC SCM100ASLと直接、XLRケーブルで繋ぐこともできる。が、間にプリアンプを入れた方が多様な入力に対応できるので、過去にも何種類かのプリアンプを試してきた。現在はATCのCA2というプリアンプを使っているが、実は僕はそれに満足していない。プリアンプ〜パワーアンプ〜スピーカーまでが質実剛健なATCのキャラクター固められてしまっているので、リヴィングでのリスニング用には、もう少し、プリアンプで色をつけたいと思っているのだ。このため、PRIMAREのPRE32など、幾つかのプリアンプを次の候補として考えているところだった。
ところで、HA-1をプリアンプとして使用するため、パワーアンプやパワード・スピーカーに繋ぐ時には、注意する必要があるのに気づいた。HA-1にはヴォリュームを介さないで出力を行うバイパス・モードもあるからだ。このバイパス設定は入力ごとに行うので、すべての入力がバイパス・モードにはなっていないことを確認してから、パワーアンプやパワード・スピーカーに繋いだ方が良い。そうでないと、思いがけなく、フルヴォリュームで信号が出力され、スピーカーを飛ばしかねない。
バイパス・モードになっている場合でも、ヘッドフォン出力にはヴォリュームが効く。だから、HA-1をDACとして利用し、ヘッドフォン出力のみ本体でヴォリューム・コントロールして、ライン出力は別のプリアンプに入れてコントールするという使い方もできる。スタンダード・モード(非バイパス・モード)では、ヘッドフォン出力とライン出力が一つのヴォリュームでコントロールされてしまうので、それぞれを別にコントロールしたい場合は、このパターンを考えるのが良いだろう。
さて、セッティングができたところで、まずはアナログ入力でDCS P8i MK2が再生するCDを聴いてみることにした。アナログ・プリアンプとしての実力を見極めるには、それが一番分かりやすいからだ。普段からオーディオ・チェック用に使うジョニ・ミッチェルの『トラヴェローグ』のCDを聴く。このアルバムのオーケストレーションのスケール感やジョニのヴォーカルの質感で、使えないプリアンプは即退場の判断にもなる。果たして、HA-1のパフォーマンスはというと、まずは深みのある低音と広々とした音場が印象づけられた。サウンドの肌合いが意外なほど柔らかいのにも驚いた。アコースティック楽器の倍音を豊富に表現しつつも、決して刺激的な音にはしない。ヴィンテージ・ニーヴのA級プリアンプにも似たシルキーな高音と言ってもいいかもしれない。ジョニのヴォーカルにもふくよかさがあって、いや、これは僕好みの音である。
DCS P8i MK2はCDの16bit/44.1kHzの信号を2.8MHzのDSDにアップサンプリングして再生する。DCS P8iは2005年発表の製品だが、僕のそれは2年ほど前にイギリスのDCSの工場で、フィリップス製のCDドライヴをエソテリック製に載せ変え、ファームウェアなどもアップデートして、DCS P8i MK2となっている。アナログ接続の次は、このDCS P8i MK2のデジタル・アウトをOPPO HA-1に入力して、同じソースを聴いてみることにした。HA-1にはアップサンプリングの機能はないから、この場合はHA-1のDACでCDの16bit/44.1kHzをそのまま再生したものになる。
デジタル入力に切り替えて、同じ音源を聴いてみると、中低域が少しだけすっきりして、その分、視界が良くなったように感じられた。高音成分にはPCMらしいきらめきが出てくるが、しかし、それを刺激的な音にはせずに、柔らかく聴かせる印象は変わらない。DCS P8i MK2のDSDアップサンプリング再生は、それ自体がCD音源をより滑らかに柔らかく聴かせるものなので、HA-1のプリアンプ部と音の傾向がダブったところもあったかもしれない。HA-1のDACを使った再生の方が、現代的なバランスでまとまった印象だ。
いずれにしろ、このまま今日からプリアンプを入れ替えても、僕は不満なく過ごしそうだ。
平面磁界型ヘッドフォン、PM-1を試す
プリアンプとしての実力は十分なことが分かったので、リヴィングから仕事場のデスクトップ環境に移動させて、HA-1が本来、主眼しているだろうPCオーディオのヘッドフォン再生に移ることにした。
今回、HA-1と一緒にOPPOのヘッドフォン、PM-1も貸して頂いたのだが、平面磁界型だというPM-1のキャラクターも知っておく必要があるので、まずは手持ちのヘッドフォン・アンプの一つであるAUDIO-GDのNFD11.32で、PM-1だけをテストした。PCはいつものiMacとAudirvanaの環境だ。聴き慣れたPCM音源を幾つか聴いてみると、PM-1はとても密度の濃い音がするのが分かる。とりわけ、中域に厚みがあり、音楽の聴かせどころを押し出してくる感じ。どんしゃり傾向の製品が多い昨今のヘッドフォンの中では、この中域の充実感はかなり強い主張を感じさせる。
その印象はPM-1の初期のユーザーにも共通するものだったようで、現行のPM-1にはイヤーパッドがもう一組付属している。新しいイヤーパッドはユーザーからの声に応えて、高域のレスポンスを改善したものだという。付け替えてみると、なるほど、中域に比べて印象が弱かった高域が輝きを増す。しかし、僕としては、オリジナルのイヤーパッドの方が製品としての個性や魅力がはっきり打ち出されているように思えた。
二つのイヤーパッドを見比べてみると、その差はパッドの表面の穴の数や僅かな厚みの違い、あとはドライバー・ユニットのまわりに薄い吸音のフェルトリングが付くか付かないかだけに見える。しかし、そのくらいの僅かな変更でヘッドフォンのサウンドが激変してしまうことは、ゼンハイザーのHD265でも経験している。経験を積んでいけば、スピーカーのセッティングと同じように、ヘッドフォンを自分の好みに合わせ、僅かな素材変更でチューニングすることも可能なのだろう。
PM-1のように中域が充実したヘッドフォンは、僕的には好ましい。というのも、ヘッドフォンでの聴取というのは、どうしてもセンター成分が弱くなる。スピーカーでの再生時には、左右のスピーカーの音が両耳に届くし、届く前に逆相成分が空気中で相殺しあったりもするのだが、ヘッドフォンでは左右の音が互いに干渉し合うことなく、Lチャンネルの信号が左耳に、Rチャンネルの信号が右耳にダイレクトに届く。このため、スピーカーでの聴取に比べて、ステレオのワイド感は広がる。
逆に言うと、その分、センターに定位する音楽の主要な要素の印象が弱くなる。レコーディング・エンジニアの吉田保さんは、ヘッドフォン・モニターでミックスする時は、DAWのステレオ・マスターのパンを8割くらいに狭める、と語っていた。そのぐらいでないと、センターとサイドのバランスがスピーカーとは同じには聴こえない訳だ。
音楽の主要な要素というのは、多くの場合、ヴォーカルだから、中域が充実していて、ヴォーカルを前面に押し出してくれるヘッドフォンならば、このセンターとサイドのバランスが少し改善される。ただし、強調されたセンター成分はセンター成分で、ヘッドフォン特有の問題を孕むことになる。それは頭蓋骨の真ん中で鳴ってしまうことだ。
脳内定位とも呼ばれるこの問題は、ヘッドフォン再生が構造的に孕んでいるものだから、避ける方法はないとも言える。が、製品によって、頭の中に音が籠るように聴こえたり、脳内定位が意外に気にならなかったり、という差があるのも事実だ。個人的経験から言うと、音が近いヘッドフォンは、センター成分が頭蓋骨の中心で鳴りがちだ。音が少し遠い鳴り方をするゼンハイザーのヘッドフォンが好きなのは、センター定位の歌や楽器も頭の中には籠らず、眼前に展開するような距離感が感じられるからだろう。
ベイヤーのDT-250は中域が充実しているので、センターとサイドのバランスは良いのだが、その分、頭の中で鳴る感覚は強い。では、PM-1はどうかというと、同じように中域が充実しながら、広い音場感もあって、脳内定位はそれほど気にならない。平面磁界型という構造がどのくらい効いているのかは分からないが、ここは数倍の価格差があるだけのことはあると思わせた。
ヘッドフォン・アンプとしての実力は?
そのPM-1をHA-1に繋いで、いよいよヘッドフォン・アンプとしての試聴を行うことにした。OTOTOYで24bit/48kHzのハイレゾが配信されている森は生きているの2ndアルバム『グッド・ナイト』を聴いてみる。生楽器主体のバンド・サウンドで、ぱっと聴きはナチュラルなのだが、よくよく聴くと、楽器の配置や残響処理に非常に細やかな、そして、時には奇抜なデザインが凝らされているのが分かる録音作品だ。ハイレゾ・ファイルをヘッドフォンで聴いてみると、そのあたりの面白さがさらに増すだろう、と考えたのだが、狙い通りだった。
AUDIO-GDのNFD11.32もDACチップにはES9018を使っていて、十分に高い解像度とSN比を持つヘッドフォン・アンプなのだが、HA-1と組み合わせたPM-1のパフォーマンスは、格段にグレードが上がる。中域の厚みに加えて、低域も量感を増す。高域も明らかに伸びて、ハイエンドの空気感が出てくるが、しかし、刺激的な音はしないので、全体としてはよりまろやかになった印象だ。細部をきちんと表現しつつも、聴き疲れしない良い音である。ただ、森は生きているのような尖った志向性も秘めたロック・バンドの音源を鳴らし切るには、高域の切れ味が増す新しいイヤーパッドの方が良いかもしれないとも思った。
しかし、HA-1 + PM−1の場合はもう一つ、選択肢がある。PM-1のケーブルをバランス・ケーブルに交換し、HA-1のバランスアウトに接続するのだ。このバランスアウトはPM-1に最適化された出力になっているそうだ。
バランス・ケーブルに変えて、再度、試聴してみると、サウンドはさらにグレードが上がり、一つ一つの楽器の輪郭や陰影が滲みなく描き出され、空間が澄んでくる。音場感も広くなっているが、それでいて、音楽としての力強さも増している。ヘッドフォン再生が抱える二律背反が解消されていくかのようなこのバランス接続での変化はとても興味深くもあった。また、バランス接続ならばPM-1のイヤーパッドはオリジナルのままで良いと感じた。
DSDを聴いてみる
さて、まだDSDを試していなかったので、OTOTOYで配信されているDSD音源の中でも、十分に聴き馴染んだものの一つであるGORO ITOの『Postludium』を聴いてみることにした。エンジニアの奥田泰次とともに作り上げたこのアルバムのアコースティック・サウンドは、本当に素晴らしい。
バランス接続のHA-1 + PM-1で聴く5.6MHzDSDヴァージョンの『Postludium』は、楽器の響きが豊かで、艶かしい雰囲気さえ漂う。ここでまた、中低域の厚みと高域の鳴りのバランスを取る上で、新しいイヤーパッドの方が良いようにも思えてきたので、一度、替えてみたが、すぐに戻した。オリジナルの濃密なサウンドこそが、HA-1 + PM-1の魅力だろう。中域〜中低域がここまで情報量が多くても息苦しくはならないのは、ローエンド、ハイエンドの再生能力にも余裕があり、空気感もきちんと描き出しているからで、そこはHA-1のES9018を使用したDACと物量を投入したアナログ・アンプの力に違いない。ES9018はスペックに優れ、広大な空間と圧倒的な解像力を持つ一方、冷静で観察的な表現になると言われたりもするが、そういう印象がまったくないのも、アナログ回路を含めたOPPOのサウンド・デザインが的確だからだろう。
試しに、ヘッドフォンをPM-1からゼンハイザーのHD600に替えてみた。PM-1の濃密な音を聴いていたので、ふわっとした隙間が空いて、一瞬、拍子抜けする。しかし、それこそが音が少し遠くで鳴ってくれるゼンハイザーのヘッドフォンの特徴であり、澄み切った空間に包まれる快さにすぐに馴染んでいく。空間があることで、楽器の定位が掴みやすく、細やかなタッチなどもよく見える。低音はPM-1ほどの重厚さはないものの、ゼンハイザー製品の中ではフラットなバランスのHD600のローエンドに深みが加わった感じ。一方、高域はハイエンドまですっと抜けながらも、柔らかく聴かせる。ヘッドフォン再生においても、スピーカーでチェックした時と同傾向のキャラクターがHA-1にはあるようだ。この柔らかさを好ましく思う人ならば、PM-1との純正の組み合わせ以外でも、HA-1と良いマッチングのヘッドフォンを見つけることができるに違いない。
いつになく長いレポートになってしまったが、しかし、HA-1のごく一部の機能しか今回は触っていない。iOSデヴァイスを接続できるので、iPhoneからONKYOのHF PLAYERやHIBIKIなどのソフトウェアでDSDを再生するなども試してみたいところだ。時代に対応した新しい機能をふんだんに盛り込みつつ、アナログ回路にもこだわって、コスト・パフォーマンスの高い製品を作り上げているところは、BDPシリーズで培ったOPPOのポリシーを強く感じる。加えて、マニアの心をくすぐる趣味性のようなものには欠けるところがあったOPPOが、HA-1 + PM-1の組み合わせではサウンドの主張も強く打ち出し、ケーブルやイヤーパッドを複数用意するなど、これまでになく踏み込んだサービスも展開するようになった。
ヘッドフォンの使用頻度が高くない僕にとっては、十数万円もするヘッドフォンやヘッドフォン・アンプは手を出しにくいものだが、HA-1のDACとアナログ・プリアンプを含めたトータル・パッケージを見たら、この価格でよくぞここまで、と思わずにはいられない。HA-1の存在はヘッドフォン・マニアにはよく知られているだろうが、実はそれは11.2MHzのDSDにまで対応した、現時点では数少ないDACプリアンプの一つでもあるのだ。そういう意味では、十万円台で本格的なDACプリアンプを、と考えている人にとっても、強力な選択肢であるのは間違いない。決め手は言うまでもなく、その音質にあるので、興味を惹かれた方はどこかで試聴することをお薦めする。
(text by 高橋健太郎)
高橋健太郎のOTO-TOY-LAB アーカイヴス
■ 第1回 iFI-Audio「nano iDSD」
■ 第2回 AMI「MUSIK DS5」
■ 第3回 Astell&Kern「AK240」(前編)
■ 第4回 Astell&Kern「AK240」(後編)
■ 第5回 KORG「AudioGate3」+「DS-DAC-100」
■ 第6回 M2TECH「YOUNG DSD」
■ 第7回 YAMAHA「A-S801」
■ 第8回 OPPO Digital「HA-1」
■ 第9回 Lynx Studio Technology「HILO」
HA-1を体感できる!! OTOTOY DSD SHOP、今年も開催!!
OTOTOY DSD SHOP 2014
■ 会期
2014年12月9日(火) 〜 2014年12月15日(月)まで
■ 営業時間
OPEN 10:00 〜 CLOSE 21:00
(12月9日はOPEN 12:00、12月15日はCLOSE 19:00)
■ 料金
無料
■ 場所
渋谷ヒカリエ8F aiiima 1+2+3
(12月9日から12月11日までは2+3のみ)
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2014年12月14日(日) 16:00〜17:30
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お申し込み方法 : 件名にイヴェント・タイトル、本文に名前と枚数を記載し、メール・アドレス [email protected] まで送付ください。(キャンセルはできません)
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仕様
■寸法 (W x H x D)
254 x 80 x 333 (mm)
■質量
5.9kg
■電源
AC 100V、50/60 Hz自動検知
■消費電力
70W (動作時)、0.5W (待機時)
■トリガー入力
3.5V – 15V、最小10mA
■トリガー出力
12V、最大100mA
■動作温度
5°C – 35°C
■動作湿度
15% – 75% (結露なきこと)
■ヘッドフォンの推奨インピーダンス
32Ω – 600Ω
■バランスヘッドフォン出力 (XLR-4) ピン配置
1 : L+、2 : L-、3 : R+、4 : R-、シェル : GND
■6.35mmヘッドフォン出力 ピン配置
チップ : L、リング : R、スリーブ : GND