「咲-Saki- 阿知賀編」二次創作 ~Il en est des passions nobles comme des vices. IV-1~
2012/06/29/Fri
私はどこに行くのだろう。私はどこへ行けるのだろう。
物事には優先順位といったものがある。私は麻雀がしたかった。麻雀が好きだったし、強くなりたかったから、私はしずや玄や和と離れて、一人、別の中学に進学した。私のその選択はまちがっていなかったと、今でも私は信じたい。……インターハイ。東京へ向かう車のなか、うつらうつらとしながら、映り行く車窓の景色に揺られ、私は過去の幻想へと囚われる。
しずはいつでもまっすぐだ。ずっとしずの側にいた私にはそのことがよくわかる。しずは、そう、和のことしか見ていない。私は、小学生のころ、そんなしずの隣にいるのが少しだけ嫌だった。もちろん和のことは嫌いじゃない。和は私にとっても大事な友だちだ。……でも、しずが和のことばかり話題にするのが次第に気になってきて、それがちょっと頭に来て、なぜ自分がそんな感情を抱くのか、不思議で……それで自分が嫌になって、そしてついには耐えられなくなった。何に耐えられなくなったのだろう? ……それは、つまり、私は和にはなれないから。私は私以外の何ものでもなかったから。
――和のようにはなれない。そのことに気づき、しずたちとはちがう阿太中に通うことに決め、私は和のことばかり話すしずへの苛立ちを忘れようと努めながら、私が本当にしたかった麻雀を私なりにがんばった。あの中学校に入学してからの二年間は、時折、脳裏にちらつくしずの姿に戸惑いながらも、自分にとって充実した時間だったと私は思う。しずに連絡を取ることも私は控えた。それが意識的にしたことか、それとも無意識的にしたことだったかは、私自身、わからない。しずも連絡をくれなかった。その理由もまた、私は知らない。……そのうち、風のうわさに和が転校したことを知った。私の頭は真っ白になった。喜びでも悲しみでもない、何かもっとずっと重く冷たい感情に、私の心は引き裂かれた。
私は麻雀がしたかった。麻雀が強くなりたかった。でも、私のその気持ちのなかに、和に対するあこがれがなかったと、果たして私ははっきりといえるだろうか?
麻雀の強い和。テレビで和を見たとき、私は嫉妬や後悔じゃない、ただ遠くの存在になってしまった和に置き去りにされたという、ある種の寂しさを、日本一強い中学生となった和を見て、思った。……和、私の友だち、自慢の友だち。かわいくて、日本一麻雀が強い、私の友だち。――そして、日本一になった和の遥かな姿が、私としずを再び引き合わせてくれた。
久しぶりに会ったしずは、私の記憶のなかにある姿となんら変わっていなかった。時が止まっていたかのよう。相変わらず、しずは和のことばかり話す。しずは私のことを見てくれない。
――ときどき、こんなことを考える。もし、阿太中に行かないで、しずや和と一緒に阿知賀に進学していたら、どうなっていただろう。もし私が最初から阿知賀にいれば、麻雀同好会くらいすぐに作れたかもしれない。そしたら玄も二年も無為の時間を過ごさないで済んだのかもしれない。もしかしたら、和も、もしかしたら、転校しないで済んだんじゃ……。
もうすぐ和と会える。――和に会ったら、私は和になんていうんだろう。……目を瞑って、私はそんなことを考える。……しずは和に何を伝えるつもりなんだろう。
私は、答えのわかりきったそんな自問自答を繰り返しながら、眠りに落ちる。もうすぐ和に会える。そしたら、すべてが始まる。すべてが始まって、くれるはず……。
物事には優先順位といったものがある。私は麻雀がしたかった。麻雀が好きだったし、強くなりたかったから、私はしずや玄や和と離れて、一人、別の中学に進学した。私のその選択はまちがっていなかったと、今でも私は信じたい。……インターハイ。東京へ向かう車のなか、うつらうつらとしながら、映り行く車窓の景色に揺られ、私は過去の幻想へと囚われる。
しずはいつでもまっすぐだ。ずっとしずの側にいた私にはそのことがよくわかる。しずは、そう、和のことしか見ていない。私は、小学生のころ、そんなしずの隣にいるのが少しだけ嫌だった。もちろん和のことは嫌いじゃない。和は私にとっても大事な友だちだ。……でも、しずが和のことばかり話題にするのが次第に気になってきて、それがちょっと頭に来て、なぜ自分がそんな感情を抱くのか、不思議で……それで自分が嫌になって、そしてついには耐えられなくなった。何に耐えられなくなったのだろう? ……それは、つまり、私は和にはなれないから。私は私以外の何ものでもなかったから。
――和のようにはなれない。そのことに気づき、しずたちとはちがう阿太中に通うことに決め、私は和のことばかり話すしずへの苛立ちを忘れようと努めながら、私が本当にしたかった麻雀を私なりにがんばった。あの中学校に入学してからの二年間は、時折、脳裏にちらつくしずの姿に戸惑いながらも、自分にとって充実した時間だったと私は思う。しずに連絡を取ることも私は控えた。それが意識的にしたことか、それとも無意識的にしたことだったかは、私自身、わからない。しずも連絡をくれなかった。その理由もまた、私は知らない。……そのうち、風のうわさに和が転校したことを知った。私の頭は真っ白になった。喜びでも悲しみでもない、何かもっとずっと重く冷たい感情に、私の心は引き裂かれた。
私は麻雀がしたかった。麻雀が強くなりたかった。でも、私のその気持ちのなかに、和に対するあこがれがなかったと、果たして私ははっきりといえるだろうか?
麻雀の強い和。テレビで和を見たとき、私は嫉妬や後悔じゃない、ただ遠くの存在になってしまった和に置き去りにされたという、ある種の寂しさを、日本一強い中学生となった和を見て、思った。……和、私の友だち、自慢の友だち。かわいくて、日本一麻雀が強い、私の友だち。――そして、日本一になった和の遥かな姿が、私としずを再び引き合わせてくれた。
久しぶりに会ったしずは、私の記憶のなかにある姿となんら変わっていなかった。時が止まっていたかのよう。相変わらず、しずは和のことばかり話す。しずは私のことを見てくれない。
――ときどき、こんなことを考える。もし、阿太中に行かないで、しずや和と一緒に阿知賀に進学していたら、どうなっていただろう。もし私が最初から阿知賀にいれば、麻雀同好会くらいすぐに作れたかもしれない。そしたら玄も二年も無為の時間を過ごさないで済んだのかもしれない。もしかしたら、和も、もしかしたら、転校しないで済んだんじゃ……。
もうすぐ和と会える。――和に会ったら、私は和になんていうんだろう。……目を瞑って、私はそんなことを考える。……しずは和に何を伝えるつもりなんだろう。
私は、答えのわかりきったそんな自問自答を繰り返しながら、眠りに落ちる。もうすぐ和に会える。そしたら、すべてが始まる。すべてが始まって、くれるはず……。