…side C…
「何、マスターシムさん知ってるの?」
「…二日連続のご来店ありがとうございます」
…帰りてぇ…
「あぁ、そう言う事か」
「お客様、ミノ…彼とお知り合いだったんですね」
「…知り合い…っていうか…」
「まぁ、ちょっとした知り合いですよね?シムさん♪」
「…はい…」
本当の事を言うのも面倒くさくて
ミノ君に合わせると
嬉しそうに微笑んでくれた
それから僕らは美味しい料理と美味しいお酒に舌鼓を打ち
楽しい時間を過ごしていた
こんなふうに楽しい時間は久々で
どうして気分が沈んでいたのか忘れてしまったほど
「ふふふ、楽しいな…」
「シムさん、やっぱり何かあったんですか?」
心配そうに僕の顔を覗き込むミノ君
どうせもう逢う事も無いだろうから
心境を話すくらいいいかも知れない…
「…そうだね、あったよ
何だか本当に馬鹿らしい事をしてしまったと後悔してるんだよ…」
「そうだったんですか…」
「あの時僕は酔っぱらっていたけれど
次の日目が覚めてから覚悟を決めたんだ
それなのにさ、突然それは勘違いでした…って言われてもさ…」
「…ぅん?」
「ミノ君には何の事かわからないだろうから深くは聞かないで?
でもさ、その一言がどうしてなのかわからないんだけど僕の胸を苦しくさせるんだよ…」
「…はぁ…」
「…僕は自由を手に入れた筈なのに…
どうしてこんな事になっちゃったんだろう…」
近いうちに引越しをして
結婚式をして
彼の両親と一緒に暮らす
そこに愛が無いのだから
それは苦痛でしか無いのかも知れない
「…もぅ…逃げ出したい…」
自分の考えの浅さに泣きそうだ
「 …シムさん…」
「…ごめん、もう……帰るよ…」
昨日みたいに夢と現実が区別出来ない程酔ってしまう前に帰らないと
また何かしてしまったら大変だ
そう思って立ち上がるとミノ君は困ったように笑って言った
「この店、本当によく来るんです
また、飲みましょう?
ここで待ってます
…愚痴なら聞きますからね?」
「…ありがとう…」
…もう来ないよ…
会計を済ませて店を出れば
冷たい風が心地好くて
ゆっくり歩きながら真っ暗な空を見上げた
星ひとつ見つけられないような
まるで僕の今後を暗示するような曇り空で…
「…はぁ…」
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