オーディオ考察:制作現場の視点でアナログ・デジタル (その2)
前回の記事では,科学的な視点からアナログよりもデジタルの方が優れているという内容だったのですが,では「音楽」というものに一番接する機会が多い制作現場という視点からアナログとデジタルの違いを考察してみたいと思います.
1つ注意してほしいのは制作現場の視点と銘打ってはいますが,私は音楽で食べているわけではないですし,もちろんミキサーさんでもないです.ただ音楽を人並みに聴き,ピアノを嗜むぐらいの人ですのでそこはご了承ください.
レコーディングスタジオで使用される主な機材
劇伴,レコーディング,ナレーション など様々な種類の収録が行われるレコーディングスタジオですが,どの収録でも主に活躍する機材の説明と接続方法を書いていきます.
ただレコーディングスタジオというのは一般人には馴染みがない所なので,機材の説明を見ても予備知識がないと理解が難しいかもしれませんが,こういう機材が主に使われていてこういうケーブルで接続されているんだな.ぐらいの解釈をしてもらえればそれだけで十分です.
ミキシングコンソール
by Dennis AB
ミキシングコンソールとはレコーディングにおいて操作の中核になる機材で,電子楽器,コンデンサーマイク,モニター用スピーカー,モニター用ヘッドフォン,DAW ソフトなど様々な機材などに繋がって音声トラックの管理をするための音響機器です.
ミキシングコンソールの内部で行われる音声信号処理はアナログ処理とフル・デジタル処理とで分けられるのですが,デジタルコンソールだとしても入力段は通常アナログ入力になっています.しかしフル・デジタル式コンソールの中ではデジタルマイクを含めたデジタル信号を直接入力できる物もあります.AES/EBU 規格の XLR 端子がそれです.
しかしヤマハや SSL などよくスタジオに設備されているミキシングコンソールは大体アナログ入力で接続することを想定しているためアナログ入力端子の数が多い物がほとんどです.
モニター用スピーカー
By Lupo Lupo
ブースを見る防音ガラス窓の左右や上部の壁に埋め込まれています.ブースは防音室になっているのでこのスピーカーを通してブースで収録された音をコントロールルームでリアルタイムに聴いたり,収録した音をプレイバックしたときも音が流れるようになっています.
大体のミキシングコンソールのステレオ出力はアナログになっているので,アンプまではアナログ出力で繋がっている事が多いはずですが,アンプからスピーカーまでの接続がどっちなのかは確認のしようがないので判りませんが,おそらくアナログで繋がっていると思います.
コンデンサーマイク
By Marc Wathieu
スタジオで使用されるコンデンサーマイクというのは,学会で発表する時やカラオケでよく見るダイナミックマイクと違っていて,忠実に本物の音を録音する能力がありますが,内部の構造が精密なためダイナミックマイクよりも丁寧に扱わないと壊れてしまいやすいです.
コンデンサーマイクはアナログの XLR ケーブルで接続する事がほとんどです.一応 AES/EBU 規格の XLR ケーブルに対応しているとデジタルでも接続できますが,アナログ接続が使えるのにわざわざデジタル接続にする事はまずスタジオではないです.
モニター用ヘッドフォン
By あとむ
ミキシングコンソールを操作するミキサーさんがモニター用にヘッドフォンを付けていたり,歌手がヘッドフォンを付けながらレコーディングしている映像などを見たことがあると思います.ソニーの MDR-CD900ST というヘッドフォンがモニター用としてかなりのスタジオで使用されているので,そのような映像を見る機会があると大体のアーティストはこのヘッドフォンを付けているはずです.
そしてこのヘッドフォンはステレオ標準プラグなのでアナログで接続されているということになります.
キュー・ボックス (またはカフボックス)
By pizza-ny
ブース内に居る歌手や演奏者の近くに個別に置いてあります,ヘッドフォンから流れてくる音声トラックのレベルを個々に調整できる小型のミキサーのような機能を持っています.
これにより逐一ブースからコントロールルームに居るミキサーさんに頼んで調整してもらわなくても,自分でレベルを調節できるのでスムーズに収録が進められます.
またナレーションブースやラジオブースにはキュー・ボックスではなくカフボックスというキューランプとフェーダーぐらいが主要の機能しかないボックスが置かれています.
こちらはマイクのオンオフを行う事が主になります,例えば自分がしゃべる必要がない場面や,咳払いなどでフェーダーを下げてオフにしたりします,
最近ではデジタル接続するものも登場していますが,まだまだアナログ接続のキュー・システムを使っているスタジオが多いのが現状です.
なぜ制作現場はアナログが多いのか
今まで取り上げたレコーディングスタジオで主に使われる機材を見るだけでもアナログばかりでしたが,なぜデジタルの方が優れているのにアナログ接続の機材が多いのかについて考察します.
備え付けの機材が多い
今まで見た機材の中で,ミキシングコンソール,モニター用スピーカー,キュー・ボックス (キュー・システム) はレコーディングスタジオを開設した時と同時にスタジオ内に設備されたもので,これを買い換えるというのは大規模な作業になってしまいますし,それにプロ用の機材は高いというのもあり費用対効果があまり見込めません.つまり古参のスタジオは現在でもアナログ接続が多くても仕方がないということです.
現在はデジタル移行への過渡期である
話は変わりますが,日本のコンセントというのは世界的に見ると安全性は最低ですし,デザインも最悪という評価で国別のコンセント評価では最低のランク付けがされています.コンセントが出火元になったり金具をそのまま差し込むだけで感電してしまうのでかなり問題がある形状だと思います.
実際,私は子供の頃に豆電球に導線が付いた物をコンセントに直接指した事があります(汗)例えば,欧州で採用されている安全性も高くてデザイン性もあるコンセントを「日本でも家電に使ってもいいですよ」という話しになったとしますと,一部のメーカーはそのようなコンセントを備えた家電を作ると思いますが,ほとんどの家庭は旧式のコンセントなので,たとえ前衛的な機能を備えた素晴らしい家電であっても売り上げは伸び悩むはずです.
しかしこれは長いスパンで見ていくと,新築の家では新しいコンセントを備えるようになったり,旧式のコンセント型から新しいコンセント型に変換するアダプタなども売れてきそうですよね.
話を戻しますと,つまり現在のレコーディングスタジオではアナログ接続の機器が多いため,デジタル接続に変えるために全ての機材を買い換えるのは得策じゃありません.しかしデジタル接続を備えた機材も最近では珍しくなくなってきているので,長い期間で見ると全ての機材が徐々にデジタル接続に変わっていく事は必至の流れだと考えます.
今回のまとめ
アナログとデジタルを語る上では制作現場の視点から考察するエントリが必要だったのですが,残念ながら私は専門の人ではないのでこれより詳しいことは書けません.
もし制作現場に興味が出てきたら専門的な内容を扱っているブログやサイトも沢山あると思うので探してみてください.
- オーディオ考察:そもそも何が違う?アナログ・デジタル (その0)
- オーディオ考察:科学的な視点でアナログ・デジタル (その1)
- オーディオ考察:制作現場の視点でアナログ・デジタル (その2)
- オーディオ考察:満足度の視点でアナログ・デジタル (その3)