<サザン傘下ジョージア・パワーはウェスチングハウスの事業再生融資に反発>(ウォールストリート・ジャーナル 4月28日)
東芝は「破産申請で海外原子力事業のリスクを遮断する」と説明していたが、まったくそうはなっていない。
ケリがつかない理由は、東芝が「アポロ・グローバル・マネジメント」(以下「アポロ」)という会社から借りる札束8億ドルだ。この金で東芝は当面の間「原発建設を続ける」としていたが……。
「借りる相手がヤバいだろ!?」
サザンが激怒した。
どうヤバいの?
そう思ってアポロのウェブサイトを開いてみると……。
<競合他社が一般的に避けている産業に意欲的に投資します。>
これが、イの一番の社の方針なのだ。
「誰も金を貸さない会社でもうちなら貸しますよ」ってことだ。
「ブラックリストOK 即融資」というビラを公衆便所に張って歩いている闇金業者か?
<我が社の投資アプローチは逆説的である場合が多い。>
逆説的?
親切な人が「あそこに金を貸しちゃダメだよ」とアドバイスしても「聞く耳を持たない」ってことだろ?
アポロの創業者は、その名もレオン・ブラック。
謎に包まれた人物だが、一度だけ、この男の写真が全世界に配信されたことがある。
2012年5月。ムンクの絵画『叫び』を史上最高額の約95億4000万円で落札した匿名の人物が、レオン・ブラックであることが判明。
でっぷり太った金貸しの部屋にムンクの『叫び』!?
どう考えて悪趣味だろ!?
史上最低の会社に大金を貸すブラックは、何を企んでいるのか?
ブルームバーグの見出しはさらにエグい。
<ウェスチングハウスの事業再生融資は知的財産泥棒という見方も>
サザンは何を心配しているの?
<8億ドルの事業再生融資の貸し手であるアポロ・グローバル・マネジメントが知的財産の鍵を握ることになり、建設中の原発プロジェクトの命運を握る>
<この融資が実行されると、資金の貸し手は、建設に必要不可欠な知的財産に対する担保権を行使し、建設が停止に追い込まれる可能性もある。>
サザンが激怒する理由はそれだけではない。
そもそも、破産を申請したウェスチングハウスが金を借りるには裁判所の承認が必要だが……。
「最低でも4月20日までに裁判所の承認を得て『建設について暫定合意を結ぶ』と東芝は約束していたのに、なんの相談もなく5月10日に延期した」
そりゃ怒られるよ。
「ボーグル原発所有者は、毎週540万ドルを支出している」
一週間で6億円超!?
サザンは「日本人が問題を一日先送りすると約8600万円の札束が消える」と泣きを入れているのだ。
「ウェスチングハウスと東芝がEPC(エンジニアリング、調達、建設を一括する)契約、さらに親会社保障に基づいて、資金面の責任をまっとうさせるため、引き続きあらゆる手を尽くす」
「あらゆる手」のなかには、当然、損害賠償訴訟も含まれる。
まさに時限爆弾だ。
東芝とサザンが原発建設継続で合意しても、「逆説的金融屋」アポロがいつ、知的財産の担保権を行使するかわからない。
建設が止まれば、即、損害賠償裁判となる。
損害賠償額は1週間6億円。1日8600万円。1時間358万円。1分6万円が積み上がっていく。
「自爆用核ベスト」を着て働いているも同然のウェスチングハウス社幹部は今、何をやっているのか?
<(下請け業者のもとに)ウェスチングハウスから突然、手紙が届き「経営破たんした3月29日以前の支払いは現時点で出来ない」と通告された。>(本社の地元紙ピッツバーグ・ポスト・ガゼット)
現場の士気は大丈夫なの?
<専用の保護ゴーグルや工場用のブーツを会社のクレジットカードで買おうとしても決済できなかったり、その場での支払いを求められたりしている。>
「東芝のウソ」が元凶の損害賠償裁判には、恐るべき前例がある。
2009年2月。東芝はサウス・テキサス・プロジェクト(STP)原発3・4号機の設計・調達・建設を一括で受注した。
長年、電力会社NRGと闘ってきたジャーナリスト、グレッグ・パラストの元に差出人の名前のない小包が送られてきた。資料の袋には「STP」と大書されていた。
<東京発の資料のなかに手書きのメモの数字があり、私には原子炉建屋の建設費に関する個人的な試算に思えた。これは、実際の請求額になるものだ。メモは内密の企業情報として書き加えられた数字があり、足し算すると71億ドルに達していた。>(『告発! エネルギー業界のハゲタカたち』早川書店)
おそらく、パラストに届いたものと同じ内部告発資料が、STP原発に50%出資する市営企業CPSエナジー、サンアントニオの市議会議員にも届けられた。
2009年10月。CPSエナジー幹部は、東京に飛び、東芝本社に乗り込み直談判した。
「経費の増大は受け入れられない」
パラストが受け取った別の資料には、次のような記載があった。
<57億900万ドル→142億7200万ドル÷2=71億ドル 一基につき(秘密)>
解読はむずかしくはない。
表向きの入札額は一基57億900万ドルだが、本当の建設費は2基で142億7200万ドル。2で割って一基あたり71億ドル(でもこれは秘密だよ)ってことだ。
「秘密」を東芝が正直に話したのなら、CPSがわざわざ東京まで行って抗議することはありえない。水面下で話し合い、CPSが損害金をもらって手を引けばそれで終わりだ。
ところが、政治の表舞台で大問題となった。
2009年10月。サンアントニオ市議会は、原発建設のために新たに4億ドルの債券発行を承認するはずだった。
「プロジェクトの総額が入札時より40億ドルも高いという情報を入手した。この情報は市議会にはまったく知らされていない」
東芝の「秘密」は、サンアントニオ市議会で暴露されたのだ。
11月。CPSのゼネラルマネージャーと理事会会長が辞任した。議会に対し、CPSが「秘密」を正直に話していたら、同社幹部が辞任に追い込まれることはありえない。
内部告発がなかったら、NRG、東芝、CPSは、ウソをつき続けていたに違いない。
東芝は、サンアントニオの100万人を超える市民から約4552億円を詐取しようとしていたのだ。
サンアントニオ市議会が東芝の詐欺を暴露した!
損害賠償金額、なんと2兆8868億円!
2009年12月6日。CPSはNINAを訴える裁判を起こした。
「CPSが原発増設プロジェクトから撤退した場合、CPSが負うべき法的義務と責任を明確にするように」
「裁判長、私たちはどうしたらいいの?」という(公務員らしい?)ずいぶんおとなしい訴状だったのだが……。
恥知らずのNRGと東芝は、なんと、カウンター訴訟で応えた。
「ニーナ」ちゃんの逆ギレは記憶されていい。
「CPSが投資した3億ドルを放棄してプロジェクトから撤退するか、出資を継続するか、どっちかに決めろ!」
「日本を代表するメーカー」東芝は発狂した。
NINAの態度に激怒したCPSは、争点を変えた。
「NINA社の詐欺的契約に誘い込まれた」
訴状には「詐欺」「不正行為」「共謀」という言葉が並んだ。
損害賠償金の額はなんと……。
320億ドル!!
当時のレートで約2兆8688億円!!
裁判に負けたら、東芝は破産していた。
助け舟を出したのは、またしても、バラク・オバマ大統領、ウォーレン・バフェット経済顧問のコンビだった。
裁判に負けたら、最大株主「NRGの事実上のオーナー」であるバフェットも破産していた。
2010年2月1日。オバマ大統領は突如、「原発新設に対する融資保障枠の大幅拡大」を議会に提案した。
その額545億ドル(当時のレートで約4兆8859億円)!
前年度予算の約3倍。
あっという間の出来事だった。
わずか16日後の2月17日。泥沼化していたSTP原発裁判は終わった。
(拙書『東芝の深い闇「原子力破産」へのカウントダウン』より)
バラク・オバマ大統領はもういない。
最近のコメント