あるときは銀行の窓口業務をこなし、あるときはがん患者の治療方針を提案し、あるときは独創的な料理を作る――。米IBMの「Watson」が提供するアプリケーションはあまりに多彩で、捉えどころがない。
Watsonとは、いったい何を指す言葉なのか。IBMは、クイズ王を破ったこのコグニティブ(認知)システムを、どうビジネスに結びつけるつもりなのか。英語向けのWatsonを日本語に対応させることは、本当に可能なのか。
これらの問いに最も適切な答えを返せるのは、Watson Groupの指揮を執るIBMシニア・バイス・プレジデントのマイク・ローディン氏だろう。
ローディン氏は、Software Solutions Groupの責任者だった2011年半ば、クイズ番組「ジョパディ!」でWatsonがクイズ王を破ったシーンをテレビで見て、思わず「I want that!(これが欲しい!)」と叫んだという。翌日にはWatsonチームを訪れ、開発陣をローディン氏のチームに引き入れるよう動き出した。
そこから2013年末までの2年間、ローディン氏を含めたWatson開発チームは「ステルスモード」(何のアナウンスもせず技術開発に専念すること)に入り、Watsonという荒削りな技術を商用化する技術戦略を練り上げた。
今回はローディン氏へのインタビュー(写真1)をもとに、IBMが社運をかける「Watson」のアーキテクチャーとビジネス戦略を解剖する。