「こういう言い方をしたらいけないのかもしれないが、結局は生まれつきですよ。できる人に機会を与えれば、自分でできるようになる。できない人にいくら懇切丁寧に教えても、できる人にはならないね」

 この身も蓋もない発言を聞いたのは、筆者が駈け出しの頃だったから、もう20年以上も前だ。情報システムの開発を成功させるにはどうすればよいか、色々な方を取材していたとき、「開発で一度も失敗したことがない人がいる」と紹介され、その人に会ったところ、こう言われてしまった。

 そもそも、失敗しないその人との話はあまり弾まなかった。「なぜ失敗しないのですか」と聞くと相手は「うーん。失敗したことがないからなあ」と首をひねった。「あなたのように失敗しない部下をどう育てますか」と問うと、冒頭の答えが返ってきた。

 当時のことを思い起こしてみると、筆者の取材能力に問題があり、相手から話をうまく聞き出せなかった。その人が不親切であったわけではない。

 情報システムの開発に関して、他の取材先で聞いた言葉を並べ立て、「どうですか」と聞いていただけだったから、相手は答えにくかったのだろう。当時のやり取りを再現してみよう。

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 「システム開発で失敗しないカギは要件定義ですか」

 「要件定義は大事ですよ。開発を始める前に物事を整理しておくと後々楽だから。ただね、それができれば苦労はないわけで。まあ、開発を始めたときの要件なんていい加減なものですよ。『要件定義は終わっています』と言われる場合は結構あるけれど、本当に終わっていたことなんて一度もなかったなあ」

 「やり直すのですか」

 「無理。要件定義が終わったから開発に入ります、とお客さんに言ってしまっている。実は要件定義が駄目でしたので、やり直しますなんて言えないでしょう」