日経情報ストラテジーは2012年6月号の特集で「組織風土改革の第一人者 柴田昌治氏と考える、いい会社の条件」を掲載し、読者から大きな反響をいただいた。東京電力の原発事故以降、企業の組織風土にあらためて関心が集まり、組織風土の悪化は致命傷になるということを多くの人が認識したタイミングに重なったのが、反響の理由かもしれない。

 すると先日、柴田氏が所属するスコラ・コンサルトから、こんな話を聞く機会があった。

 「6月号の特集掲載と前後するように、IT業界の方から、うちの会社の組織風土改革もお手伝いいただけないでしょうか、とお声がけいただく機会が増えました」

 組織風土の問題は、それこそ業種や規模を問わず、ありとあらゆる企業に存在する。実際、特集ではヤマトホールディングスや大日本住友製薬のような大企業から、段ボール製造機器メーカーの中堅企業であるISOWAや自動車ディーラーのトヨタカローラ大分など、様々な企業が抱える課題と取り組みを紹介した。

 そうしたなか、IT業界から組織風土改革の引き合いが相次いだのはなぜだろう。リーマン・ショック以降、スコラ・コンサルトに寄せられたIT業界からの相談内容を集約していくと、次のようになるという。

  1. SE(システムエンジニア)が多い職場で、会話や相談、協力ができていない
  2. 顧客の言いなりで多忙を極め、相談もし合えないことが原因で、メンタルヘルスの不調を訴える問題が増加している
  3. マネージャーもプレーヤーにならざるを得ず、人を育てる余裕がない
  4. 請負仕事から提案型の仕事になかなか転換が進まない、対話能力が身に付いていない
  5. 親会社から“与えられる”仕事に頼っていたシステム子会社の行き詰まりと、急な「自立」要求へのプレッシャー(自ら考える仕事に転換できない)
  6. そもそも会社が「目指す姿」が見えない、定まっていない

 こうしてみると、これらの課題は必ずしもIT業界だけに固有のものではないことが分かる。ただ、多様な価値観と技術を持った人がチームを組んで、一つのプロジェクトに取り組むことが多いIT業界では、問題が顕在化しやすいのは確かだろう。

 また、システム関連会社は大企業グループの機能子会社であることが多いが、親会社の業績悪化で急に独り立ちを求められたり、グループ内外で合併・統合が続いて組織としての一体感を持てないといった特有の背景はあるのだろうと、スコラ・コンサルトは見ている。

 そうしたなかで、もしかすると「いい会社」の特集を読んだことで、柴田氏に相談してみようと、背中を押された関係者が何人かいたのかもしれない。ITproの読者にはIT業界に属する人が大勢いるだろうから、他人事ではいられないだろう。