2009年10月28日から30日にかけて,東京ビッグサイトでITpro EXPO展示会が開催された。筆者は,selfupのブース「selfup広場」に携わった。
selfup広場では,ITpro/selfupの人気連載筆者による講演「selfupシアター」を実施した。講演のテーマは文書術,会話術,図解術,技術解説,キャリア設計など,さまざまだった(写真)。
講演を聞いていて,一つ気付いたことがあった。話すテーマは違うのに,数人の講演者が同じことを“コツ”として紹介していたのである。そのコツとは,「情報のかたまりにラベルを付ける」というものだ。
selfupシアターの開催報告を兼ねて,いくつかの講演内容を紹介したい。「もうちょっと詳しく知りたい」という人のために,テーマを解説した関連記事も併せて紹介しよう。
文書術---情報を整理して要約を作る
講演の一番手は「悪文と良文から学ぶロジカル・ライティング」の安田 正氏である。安田氏がわかりやすい文書を書くためのコツとして真っ先に述べたのは,「主語と述語を近づける」といった日本語のテクニックではなく,講演に共通するコツ,つまり「文書の情報をグループに分けてラベルを付ける」だった。
ここでいうラベルとは「要約」のことである。いざ報告書などを書くとなると,ひたすら時系列に文章を並べてしまいがちだ。そうすると,その文書で何が言いたいのかが伝わりにくくなる。
文書を書くときは,情報をいくつかのグループに分け,その要約を並べるという意識を持つほうがよい。そうすると,要点が伝わるスッキリした文書になる。安田氏は講演でこう語った。
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図解術---文章も図解も意識することは同じ
図解術の講演でも同じコツを披露していた。登壇したのは,「開米のドキュメント図解術駆け込み寺」の筆者である開米 瑞浩氏である。
開米氏は実際の図を示しながら,「情報を分類してそれぞれにラベルを付け,それらを時系列や階層にそろえるとグンと見やすい図が描ける」と説明した。
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筆者は記者や編集の仕事をしているので,文書術と図解術をこれまでの経験と照らし合わせて聞くことができた。文章も図解も結局,相手に物事を伝えるための手段である。手段は違えど,意識すべき点は同じわけだ。
会話術---最初の一言が「ラベル」になる
物事を伝える手段は文章や図のほかにもある。その一つである「話す」をテーマに講演したのは,「コミュニケーション・スキル講座:聴く力と話す力を磨く!」筆者の高橋 俊樹氏だ。驚いたことに,このテーマでも同じ内容がコツとして紹介されていた。
高橋氏は話をわかりにくくする例として,会話の中でよく出てくる「~なのですが…」のフレーズを挙げた。このフレーズを多用すると,話が長くなって結局相手に何が言いたいのかが伝わりにくくなってしまう。
そこで会話の最初に「今日は~を議論します」あるいは「私は~と思いました」などと,結論を短く言うようにすればよい。これが,自分の言いたいことであり,文章術や図解術で言うところの「ラベル」になる。
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筆者はこれまで,書くことと話すこととはまったく違うスキルが必要になると思っていた。細かいテクニックになると実際はその通りだろう。ただ,話すことも書くことも,結局は相手に物事を伝える手段である。わかりやすく伝えるために意識すべき点は共通しているというわけだ。
勉強術---混沌としたものはそのままでは学べない
文書術や会話術といったコミュニケーション技術だけでなく,勉強に取り組む際の「考え方」に関する講演でも,要約や整理を意識する意義が語られた。話したのは,「矢沢久雄のソフトウエア芸人の部屋」でおなじみの矢沢久雄氏である。
「ITと上手に付き合うコツ」と題した講演で,矢沢氏は「学問と現場の違いを知ることが大事」と話した。その中で,「現場は混沌としており,そのままでは学べない。整理・分類して初めて,学べるようになる」と語った。
例えば,勉強のための教科書や参考書の目次は,そのジャンルの混沌とした情報を整理・分類し,内容のラベル(見出し)を列挙したものだ。こう考えると,勉強する際の意識がちょっと変わってこないだろうか。
教科書や参考書の見出しを「実践のためのお勉強」ととらえると,ページをめくるのがつらくなる。これに対し,「実践で出てきた物事を,わざわざ整理・分類してくれたもの」ととらえると前向きに勉強できそうな気になるのは,筆者だけではないはずだ。
ここまでに挙げた文書術や会話術などは「ヒューマンスキル」と呼ばれるスキルに属するものだ。ITエンジニアに限らず,すべてのビジネスパーソンに必携のスキルと言える。
現在では,専門化・複雑化したさまざまな情報がはんらんしている。情報伝達のスピードも求められる。「あれもこれも習得しなきゃ…」とあせる必要はないにしても,こうした時代だからこそ,混沌とした情報を整理する意識やスキルを身につけた方がよいのは確かだろう。