Winnyのネットワークがついに崩壊するかもしれない。

 米eEye Digital Securityの鵜飼裕司氏らが開発した「Winnyネットワーク可視化システム」(以下,可視化システム)が近く動き出すからだ(関連記事「米eEye,「Winnyネットワーク可視化システム」を無償で公開」)。コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)と日本国際映画著作権協会(JIMCA)が同システムの導入をほぼ決めている。鵜飼氏によれば,他の著作権管理団体も導入を検討中だという。

 7月中のシステム稼働を予定するJIMCAは「可視化システムを使って著作権侵害行為に対して警告活動を行う。悪質な場合は刑事告訴も辞さない」(萩野正巳・調査本部広報・統計分析室長)と強硬な構えを見せる。各団体が同様の活動を行えば,かなりの著作権侵害行為の削減を見込めるはずだ。

 さらに逮捕者が出る事態にまで発展すれば,Winnyユーザーは激減するだろう。2003年11月にWinnyユーザー2人が逮捕されたとき,国内IX(internet exchange)のトラフィックが1~2割減った前例がある。これは逮捕に衝撃を受けたユーザーが一時的にWinnyの利用を止めたからだと思われる。

 しかし,WinnyネットワークをつぶすことがWinnyにまつわる諸問題——著作権侵害や暴露ウイルスによる情報漏えい,セキュリティ・ホールの存在——の本質的な解決になるのだろうか。

結局「いたちごっこ」ではないのか

 Winnyが使えなくなれば他のファイル交換ソフトへの移行が進むだけだ。早くも“ポストWinny”として「Share」がユーザー数を増やしている。Winny自体,「WinMX」の後継として登場しているので,ユーザーはファイル交換ソフトの“乗り換え”を経験済みだ。WinMXからWinnyへユーザーが移行したように,WinnyからShareへの移行が進むだろう。

 もっとも,セキュリティ専門企業のネットエージェントはShareの解析に成功している(関連記事「Shareの通信を遮断,ネットエージェントがファイアウォールを強化」)。「Shareネットワーク可視化システム」の登場は時間の問題と言える。

 しかしである。Shareのネットワークが無くなっても,やはりまた別のファイル交換ソフト——つまり第3,第4の“Winny”が登場し,ユーザーの乗り換えが起こるだろう。ファイル交換ソフトは世界中で開発されている。WinnyやShareよりも高機能・高性能なソフトが,いつ登場しても不思議ではない。

 要するに,結局は「いたちごっこ」になる。Winnyネットワークが無くなって解決するのはWinnyのセキュリティ・ホールの問題くらいだ。

本質的な解決策は無い

 では,本質的な解決策は何であろうか。例えば,あるセキュリティの専門家は「Winnyのように情報の2次流出,3次流出を引き起こすソフトは作ってはいけない」とし,法規制も視野に入れるべきだとする。つまり,“Winnyのような”ソフトの存在自体を違法にしてしまう案だ。ソフト自体が違法になれば,ファイル交換ソフトによる著作権侵害と,暴露ウイルスによる情報漏えいという二つの問題は確かに解決するだろう。

 だが,法規制の実現は相当困難だ。多方面からの反発は必至である。そもそも,その専門家氏も「“Winnyのようなソフト”をどのように定義するかが難しい」との見解を示す。定義が曖昧だと,有用なソフトまで違法にされかねなくなる。

 結局のところ,今後登場するであろう第3,第4の“Winnyユーザー”が引き起こす,著作権侵害と情報漏えいへの本質的で実現可能な解決策は見当たらないのが現状だ。

 可視化システムによってWinnyネットワークがつぶれる可能性は高い。しかし,Winnyのようなファイル交換ソフトは今後も続々と登場し,使われる。著作権侵害や情報漏えいへの対策は,この現実を踏まえた上で講じることが重要だ。