本連載では、そば屋のビジネス、主としてオペレーションの一部を、コンセプチュアルデータモデルを通して考察し、ビジネスの構造を理解し、課題を抽出してきました。
第1回では、そば屋で「顧客から注文を受ける静的モデル」を、第2回では「調理場の中の静的モデル」を、第3回では、静的モデルに登場する主要な「もの」の状態変化を示す動的モデルを、それぞれ描き、第4回でデータモデルを使って、ビジネスの課題を確認したり、業務改善案を策定したりしてみました。
今回はまとめとして、そば屋の情報システムを考えてみます。第1回で紹介した摂津名所図会に描かれている江戸時代の大店のそば屋を思い出してください。醤油蔵や蕎麦蔵まで保有した巨大なそば屋でした。皆さんが普段利用する普通のそば屋の10数倍の規模のそば屋を考えますと、製造直販の企業情報システムが必要になります。
今回紹介したいくつかのコンセプチュアルデータモデルは、そば屋の業務の一部しか考察していませんが、少し描いてみるだけで、一見単純そうな業務でも、店頭の受注管理と調理場の生産管理の諸機能を組み合わせていることが分かります。
そば屋のビジネスの全体像を把握する
5回にわたって述べてきた諸要素をすべて考えると、「顧客の注文」を示す静的モデルと調理場内部の静的モデルを統合した、そば屋ビジネス全体のモデルを描くことができます。そこに登場する主要な「もの」について動的モデルを描いてみますと、そば屋のビジネスの全体像が把握できるはずです。
今回描いたコンセプチュアルデータモデルは、あくまでビジネスの視点で見たモデルです。このモデルを描く狙いは、現行のビジネスの状況を理解することにあります。理解とは、モデリング参加メンバーの間で、現状を整理し、対象としたビジネスに対して共通の認識を持つことです。合意と言い換えてもよいでしょう。