2010年4月15日から17日、米国サンフランシスコで非営利組織The Linux Foundation主催のイベントである「第4回 Collaboration Summit」(以後CS)が開催された。私はオープンソースコミュニティとビジネス世界との橋渡しをしながら、双方の発展に寄与したいと願って活動に取り組んでいるが、このイベントで、オープンソースとビジネスの関係について、改めて目からウロコが落ちる思いがした講演に出会ったので紹介させていただきたい。
その前に、Collaboration Summitについて簡単に説明しよう。Collaboration Summitは招待者限定のサミットで、カーネルのコア開発者、ディストリビューションメンテナー、ソフトウエアベンダー、エンドユーザー、システムベンダー、およびその他のコミュニティのメンバーが出席し、Linuxが直面している最重要課題について全体会議やワークグループミーティングで討論し解決する、きわめて実際的な会議である。
Androidとコミュニティの関係修復
例えば、今年の課題の一つとして、「Androidとコミュニティの関係修復」があった。2010年2月にリリースされたLinuxカーネル2.6.33からは、Android関連のコードが削除されている。GoogleはAndroidのコードをLinuxカーネルに統合するための努力を行っていないとされ、AndroidがLinux本体から分岐(フォーク)するのではないかという懸念さえ出ていた。
登壇したGoogleのOpen Source Program Manager Chris DiBona氏に対し、会場から「Androidからはカーネルへのパッチ投稿が一切ない。Googleはカーネルにコミットするためにリソースをアロケートしていくつもりはあるのか?」など厳しい質問が相次いだ。
これに対してChris氏は「リソースの問題、Googleの会社としての姿勢の問題、それに文化的な問題があり、メインラインカーネルへのコミットに関して、自分たちはうまくいっていない」と認めつつも、「現在世界中でAndroidベースの製品が開発されている中で、それをサポートしているAndroidの技術者たちは計り知れないプレッシャーの下にいるということを、ぜひ理解してほしい」とコミュニティに対して理解を求めた。
カーネルコミュニティの高齢化
また、カーネルメンテナーによるパネルディスカッションでは、Linux情報サイトLWN.netの編集者であるJonathan Corbet氏より「カーネルコミュニティは高齢化が進んでいる」との問題提起が行われた。
著名なカーネルメンテナーである Andrew Morton氏も「カーネルが年々複雑化していくにつれ、新しい人材が参画しにくくなっており、この問題は深刻になる一方である」と述べ、若い人材を育成する取り組みの必要性を語った。
IBM、Intel、Nokiaのオープンソース戦略
基調講演では、IBMのOpen System Development担当副社長であるDan Frye氏、IntelのOpen Source Technology CenterのDirectorであるImad Sousou氏、NokiaのMaemo Device & MeeGo Operations担当副社長であるAri Jaaksi氏などが次々と登壇し、各社のLinux/オープンソース戦略や、これまでのビジネスの歩みを説明した。
その中で注目したいのは、IBMのDan Frye氏は「コミュニティは支配するものでなく、参加するものである」と述べ、IntelのImad Sousou氏は「Intelにおけるオープンソースビジネスの成功の秘訣は、アップストリームプロジェクトに貢献すること、それ以外には特にない」と述べていたことである。
彼らは自社製品・サービスのためにコミュニティをコントロールすることではなく、むしろ彼らの製品・サービスをいかにコミュニティのプロセスに合わせていくかを重要視してきたという。常に「いかにコミュニティに貢献するか」を考えてきたと彼らは言う。
冒頭に述べた「目からウロコの講演」とは、これらの基調講演のことである。本稿では、その中のIBMのDan Frye氏の「10+ Years of Linux at IBM」を詳しく紹介したい。