Linuxカーネル開発者でLWN.net エグゼクティブ・エディタのJonathan Corbet氏
Linuxカーネル開発者でLWN.net エグゼクティブ・エディタのJonathan Corbet氏
[画像のクリックで拡大表示]

 2009年秋,日本にLinus Torvalds氏を始めとするLinux開発者が集う。年に1度のカーネル・ハッカーの祭典Linux Kernel Summitが東京で開催される。アジアで行われる初めてのKernl Summitだ。

 ITproではKernl Summitに向けて,カーネル開発者の実像とカーネル開発の実態をシリーズでお伝えしていく。第1回は,世界中のLinuxカーネル開発者が欠かさず読むニュース・サイトLWN.net(Linux Weekly News)を運営するJonathan Corbet氏を紹介する。Corbet氏は,ニュース・サイトの運営者であると同時にLinuxカーネル開発に貢献しているカーネル・ハッカーでもある。膨大なカーネル・メーリングリストの投稿に目を通し,その全体にわたる傾向を把握している数少ない人物の一人と言われる。

Linuxカーネル開発の動向を俯瞰する

 LWN.netは英語サイトだが,その一部は日本語訳も提供されている。Corbet氏がLinux Foundationに提供しているLinux Weather Forecastだ。カーネルの開発の現状と予想を天気予報のように伝えるサービスだ。Linux Foundation Japanが2008年より日本語訳の公開を開始した。

 またCorbet氏が書いた「Linuxカーネル開発への参加方法」と題する文書も日本語に翻訳されている。Linux開発コミュニティとのつきあい方や,なぜ修正を自分たちだけで行うのではなくカーネル・コミュニティに投稿すべきかについて解説している。独自に開発したコードは自分たちで維持管理しなければならない。これに対しカーネルに含まれたコードはこのような作業は不要だ。それだけでなく,カーネル内のコードは他の開発者によってレビューされ,改良される。また開発プロセスに参加することで、カーネル開発の方向に影響を与えることができる,とCorbet氏は指摘する。

 Corbet氏が最初にUNIX系OSの開発に参加したのは大学でのこと。大学でUNIX OSを学んでおり,彼女はオリジナルのBSD UNIXの開発者のひとりであるEvi Nemeth氏だった。「研究室にはVAXミニコンピュータがあり,Nemeth氏は私にそのソースコードに触れ,バグを修正する機会を与えてくれた。その経験で私はソースコードがあれば,システムをコントロールでき,問題を解決できるんだと言うことを学んだ」と,Corbet氏は振り返る。

Linuxコミュニティはアクティブで親切

 その後,プログラマとして働いていたColbet氏はLinuxに出会う。当時,パソコンで動くフリーのUNIXとしてはFreeBSDもあった。BSDにも精通していたCorbet氏がLinuxの開発に参加した理由は「Linuxコミュニティは非常にアクティブであり,親切で,レスポンスも非常に早かった。Linuxに比べるとBSDコミュニティはスローだった」(Corbet氏)からだという。Corbet氏が初めてパッチを書いたのは93年。フロッピー・ディスク・ドライブのコードだったという。

 LWN.netのアイデアを思いついたのは97年頃だった。その頃,Corbet氏は政府系の研究所で働いてた。「Linuxの開発にもっと多くの時間を使いたいと考えるようになった」(Corbet氏)。そこでLinuxの利用や開発を行う人を支援するコンサルティング・サービスを開始した。「LWN.netは営業のため,注目を集めるために始めた」(Corbet氏)。ところが,LWN.netは予想を超える好評を博し,非常に大きな成功を集めた。そこでCorbet氏はビジネスをLinux Weekly Newsに絞ることに決めました。有料購読メニューを始め,現在は5000人以上の有料購読者がいる。世界中に読者がおり,北米は40%,ヨーロッパは40%,20%はオーストラリア。日本の有料読者は5%以下だという。

日本のコミュニティは急速に成長している

 「何度か日本に来て,日本の開発者のミーティングに参加し話をしたが,日本の開発者が優秀で,日本の開発者コミュニティは急速に成長していることにとても勇気づけられている。日本のコミュニティが今後も我々Linuxコミュニティに様々な提案をしてくれれることを期待し,歓迎する」---Corbet氏は日本の開発者にこうエールを送る。

◎関連リンク
LWN.net
Linux Weather Forecast(日本語訳)
Linuxカーネル開発への参加方法(日本語訳)