米アマゾン・ドット・コムは今や、「ITベンダー」である。多くのユーザーがすでに、サーバーやストレージなどのハードウエア、OSやデータベースなどのソフトウエアを、米IBMや米マイクロソフトといった既存のITベンダーから購入するのではなく、アマゾンからサービスとして調達し始めている。
1990年代にインターネット書店として産声を上げた米アマゾン・ドット・コム。そのアマゾンが現在、「ITベンダー」に姿を変えつつある。
もちろん、アマゾンがサーバーを販売し始めたわけではない。アマゾンは、自社のデータセンターで運用するサーバーやストレージといったITインフラを、インターネット経由で「サービス」として提供しているのだ。
例えば「Amazon EC2(Elastic Compute Cloud)」は、アマゾンが運用する「仮想マシン」を、ユーザーが自由に利用できるというサービス。ユーザーは任意のOSやアプリケーションを、EC2の仮想マシン上で実行できる。
商用ソフトが相次ぎEC2に対応
Amazon EC2は「ITベンダーとしてのアマゾン」を語る上で欠かせない存在だ。というのも、EC2上で利用できる「商用OS」や「商用ミドルウエア」が急速に増えているのだ(表1)。
今から1年前の2007年11月。まず米レッドハットのRed Hat Enterprise Linuxが、EC2に正式対応した。EC2上でRed Hat Enterprise Linuxを動作させることが、ベンダーのサポート対象となったのだ。
2008年5月には米サン・マイクロシステムズのOpenSolarisとデータベースサーバーMySQLが、同年6月にはレッドハットのアプリケーションサーバーJBossが、同年9月には米オラクルのデータベースサーバーOracle Database 11gと、ミドルウエアOracle Fusion MiddlewareがEC2に対応。リレーショナルデータベースを使用するアプリケーションをEC2上で稼働できるようになった。そして同年10月、米マイクロソフトのWindows ServerとSQL ServerもEC2に対応した。
今から10年前の1990年代末、米IBMやオラクルのような商用ベンダーが相次いでLinuxをサポートし始めた。その結果、それまでホビー用途向けとみられていたLinuxが、一気にエンタープライズ市場に浸透した。同じことが現在、EC2にも起こっている。EC2は「1990年代末のLinux」に状況が酷似している。
ハードウエアからミドルウエアまで提供
「ITベンダーとしてのアマゾン」の力量がどれほどのものかは、IBMやマイクロソフトといった既存のITベンダーと比較するとよくわかる。すでにアマゾンは、彼らと同様の品ぞろえを有している(図1)。
仮想マシンサービスのEC2は、既存ITベンダーにとってのサーバー販売に相当する。ストレージ販売に相当するものとして、オンライン・ストレージ・サービスの「Amazon S3(Simple Storage Service)」や、EC2の仮想マシン用の外付けディスクとして機能する「Amazon EBS(Elastic Block Store)」というサービスが存在する。
ユーザーはアマゾンのサービスを使用することで、サーバーやストレージを購入して自前で運用する代わりに、アマゾンが北米と欧州に展開するデータセンターで稼働するサーバーやストレージを、自由に利用できるのだ。
アマゾンはさらに、データベースやミドルウエアもサービスとして提供する。「Amazon SimpleDB」は、データ操作にクエリー言語が使える汎用データベース。メッセージングミドルウエアの「Amazon SQS(Simple Query Service)」は、システム間でやり取りするキューをインターネットを介して転送するサービス。いずれもアマゾンが自前で開発したソフトウエアだ。
このように、ハードウエアからデータベースに至る幅広いITインフラ製品をサービスとして提供しているのが、アマゾンの現在の姿である。