■今や全国に150カ所以上存在する地域SNS。地域に何を還元できるのか。自治体はどうかかわるべきか。課題は何か。地域SNSの可能性を探る。(庄司 昌彦=国際大学GLOCOM研究員

※ このコンテンツは『日経BPガバメントテクノロジー』第14号(2006年12月15日発行)に掲載された記事を再構成したものです。

元祖・地域SNSの「ごろっとやっちろ」がオープンしたのは2004年12月。現在では150カ所以上の「地域SNS」が確認されている。
元祖・地域SNSの「ごろっとやっちろ」がオープンしたのは2004年12月。現在では150カ所以上の「地域SNS」が確認されている。
ユーザー数が最多の地域SNS「VARRY」
ユーザー数が最多の地域SNS「VARRY」
総務省の実証実験として誕生した「ちよっピー」
総務省の実証実験として誕生した「ちよっピー」

 人と人の「つながり」を意識して作られたインターネット上の会員制コミュニティ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が注目を集めている。続々と増えているSNSサイトの中で数多く見られるのが、「地域」をテーマに掲げた「地域SNS」だ。地域コミュニティ活性化のツールとしてクローズアップされてきている。

■既に150カ所超の地域SNSが

 地域SNSは、特に2006年に入ってから加速度的に開設数が増えており、2006年10月現在では150カ所以上のサイトが存在している。運営するのは地方自治体や各地のシステム開発企業、メディア企業、NPOなど様々であり、これらが協働でSNSを立ち上げる事例も登場している。

 地域SNSのさきがけは、2004年12月にSNSを導入した熊本県八代市の「ごろっとやっちろ」だ。市のコミュニティサイトを、もっと住民に使ってもらえるネット上の居場所にしようという目的で「ともだち」をリンクさせる機能や日記、コミュニティ等のSNS機能を導入し、また地図やWiki(コンテンツ管理システムの名称)、回覧板などの機能も独自に設けた。今では登録者数は1800人以上に増加し、アクセス数も月間平均4万ページビュー以上にまで伸びている。子育てや食べ歩きなどの話題で情報交換が活発化したり、ユーザーが自発的にオフ会を開催するなどの効果がみられているという。イベント情報や火災など緊急情報を市から住民へ伝達するシステムとしても浸透してきている。

 八代市の成功に着目し、2005年12月から2006年2月まで総務省は東京都千代田区の「ちよっピー」と新潟県長岡市の「おここなごーか」で実証実験を行った(両地域SNSは実証実験が終了した現在も運営中)。これが地域SNSの活用を他の地方自治体へと広める契機となった。

 実証実験は、住民の合意形成や行政への意見表明、住民同士の交流、災害時の連絡手段にSNSを活用することを目的として行われた。この実験では、地域の安全にかかわる緊急事態が生じた(千代田では地域内で殺傷事件が起きた)ときに、地域に密着した情報が迅速に共有され、それによって住民の不安が解消したと成果が報告されている。地域の人々が普段からアクセスするネットコミュニティ(地域SNS)が存在し、そこに日々アクセスしているプロフィールが分かる人を起点に、生活に密着した情報が、早く正確に、地域内に広く伝わったということは、確かにSNSの特徴が活かされた成果であったといえるだろう。そのほかにも、桜の見どころなど地域の魅力を再発見したというような情報交換も行われ、その情報が別の地域サイト「千代田Day's」で活用されたりもした。

 この成果を引き継ぎ、2006年度は地方自治情報センター(LASDEC)が主導し全国の11自治体(青森県八戸市群馬県前橋市埼玉県秩父市岐阜県大垣市静岡県掛川市京都府宇治市大阪府豊中市福岡県大牟田市長崎県五島市大分市鹿児島県奄美市)が参加して実証実験を行っている。

 この事業の特徴は、地域住民などが「まちかどレポーター」として、SNSに地域の話題を提供して住民の交流を促すとともに、災害時には災害情報発信ボランティアとしても活動するという点である。10月から11月にかけてサイトのオープンが相次いでおり、今後、この実証実験が本格化していく。

■表1 主な地域SNSの運営主体と活動の特徴
名称・URL 対象地域 運営者(組織の形態) 開始年月 推定ユーザー数 機能・特徴など
ごろっとやっちろ 熊本県八代市 熊本県八代市(自治体) 2004年12月 1800人(2006年2月) 地図機能、Wiki、回覧板など独自機能。行政情報・災害情報との連携
かわさきソーシャルネット 神奈川県川崎市 川崎地方自治研究センター(社団法人) 2005年9月 140人(2006年10月) open-gorottoの最新バージョンを使用。まちづくりに取り組んでいるキーパーソンを中心に招待
おここなごーか 新潟県長岡市 ながおか生活情報交流ねっと(NPO) 2005年12月 307人(2006年2月) 総務省実証実験。地図機能、行政と非営利組織の協働
ちよっピー 東京都千代田区 まちみらい千代田(財団法人) 2005年12月 903人(2006年2月) 総務省実証実験。地図機能、行政と非営利組織の協働
VARRY(ベイリー) 福岡県 カプセルコーポレーション(民間企業) 2006年1月 4000人(2006年10月) 地図機能あり。ユーザ数が最多。オフラインの「部活動」が盛ん
ドコイコパーク 香川県 ドコイコ(民間企業) 2006年1月 800人(2006 年10月) 自社の地域情報サイト「ドコイコポータル」との相乗を狙う。個人だけでなく団体の登録も可能。オフライン活動も盛ん
ショコベ 兵庫県神戸市 ショコベ有限責任事業組合(LLP) 2006年1月 1800人(2006 年10月) 地図機能あり。ユーザーによるリレーブログあり。オフライン活動も盛ん
あみっぴぃ 千葉県千葉市
西千葉地区
TRYWARP(NPO) 2006年2月 1000人(2006年10月) パソコン講習・サポート事業と連携、千葉大生・商店街との連携、(財)千葉県産業振興センターからの委託事業である観光プロジェクト「アイラブ西千葉」への参画
town comnit 東京都
表参道・渋谷地区
ラゾナ(民間企業) 2006年4月 1600人(2006 年10月) 独自開発。地図機能あり。商店ごとのコミュニティ。異なる地域SNS間を簡単に移動できる連携機能
ひょこむ 兵庫県 インフォミーム(民間企業) 2006 年10月 800人(2006年10月) 「地域のソーシャルキャピタルの創造」を目指す。産官民有志による運営支援