高校の同期会の記念誌に書いた人生紹介
私は中学高校時代はバトミントン部、生物部、修養部、数研などにいました。一年浪人した後、国際キリスト教大学に行きました。
ご記憶のような学生運動の状況で、高校三年くらいから大学の最初、当時「反帝・反スタ」といわれた広い意味でのトロツキズムの運動と思想に大きな影響を受けました。ただ、大学の学生運動の現実のなかで、友人が(後には私個人も)暴力をうけたこともあり、また増島先生、右遠先生、山領先生、そして深木先生などの影響もあって、大学の中途から考え方が明瞭に変わり、それとともに社会科学と歴史学の研究に進むことにしました。学生運動への参加もあって、授業への出席も不安定でしたが、日本思想史の武田清子、西洋経済史の大塚久雄の両先生の教えを受けることができたのは好運でした。またともかく高校から大学にかけて反スターリンということを突き詰めて考えたことは結果的にきわめて大事な経験になったと、今では考えています。
そして一年留年した後に、都立大学の大学院の修士課程に入ることができ、日本中世史の戸田芳実先生の指導をうけて、奈良時代から鎌倉時代の研究に入ることができました。そしてさらに好運にも東京大学史料編纂所の入所試験を受けて、同研究所の助手に採用され、何年か前の定年まで、そこにいました。
いまやっていることは、一つは歴史地震・噴火の研究です。東京大学の文理融合的研究に研究所長の立場で少し関わっていた関係で、三・一一東日本大震災の直後に東大地震研究所の研究集会の案内をうけて参加したことがそのきっかけです。そのとき、地震学界では、東北沿岸の地質調査で巨大で部厚い津波痕跡が発見されたことによって、二〇年以上前から、次の宮城県沖地震は巨大なものになり、近くやってくる可能性が高いことが常識になっていたことを知りました。この津波痕跡は、私の専門の時代の一つでもある九世紀の大津波であったにも関わらず、それを知らなかったというのがショックでした。
ただ、二〇一六年のアメリカ大統領選挙をみていて、バーニー・サンダースについて、そしてアメリカ史について研究をしたいと考え、今は、しばらく地震噴火の研究を離れています。さすがに専攻の違うことについての執筆は苦しく、前途がまだ見えませんが、高校大学時代にベトナム反戦運動や、沖縄返還運動のなかで考えさせられたこと、またマーティン・ルーサー・キングJr.牧師の公民権運動について考えたことを思い出しています。大学時代に興味をもった法学についての勉強も少しして、アメリカ憲法と日本国憲法の比較をするというのが主な内容になるはずですが、日本国憲法がアメリカ憲法の古さ、不足分を補う位置にあることを実感しています。
だいたい、私の現状はこういうところです。右遠先生が先年なくなられたのが残念ですが、先生方がお元気で過ごされることを願っております。
保立道久