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ボストンで13年働いた研究者が、アカデミック・キャリアパスで切磋琢磨する方法を発信することをめざします。
実験医学のラボレポートを読んで後輩のY先生から久しぶりにメールをいただきました。彼とは10年ほど前に大学病院で一緒に激務をこなした戦友です。非常にポジティブ&パワフルな人物で、大学院時代に基礎医学研究のおもしろさを知り、その後臨床をはなれ、トップレベルの日本の基礎研究室で数年すごし、もうすぐ海外へポスドクとして修行にでるそうです。医者には戻らず研究者としての独立を国境を問わずに目指すということ。私はY先生を応援したいと思います。

人は大学を出て数年間のインプリンティング(刷り込み)が非常に強く、多くのひとはそこから離れることがなかなかできません。またいったん離れてもまた最初の職業に(または研究領域に)引き戻されてきます。つまり、いったん職業人としてのアイデンティティーが形成されてしまうと、その領域外に出ること「change」には大きなエネルギーと痛みを要し、どうしても「Play safe」に陥りがちです。これは、私の私見ですが多くのひとが同意してくれます。

具体例としては(私の例では)、臨床医としてある程度の経験を積んだ後に基礎医学に転向するような選択を迫られた場合には、非常に悩んだ末に、
1)「臨床医が助けられるのは目の前の患者だけであるが、基礎医学研究は何十万人の患者を救う可能性がある。」などの自分のなかでの理由付けをしたのち、
2)「もし基礎医学でだめでも、(腐っても鯛なので)また臨床医に戻れば何とかやっていける。」と逃げ道をつくり、失敗の恐怖をやわらげます。
この、(2)の逃げ道がキャリア・キラーです。

問題は2つあります。「変化」に対する恐怖を克服し、前に進むための「一時的な」逃げ道はよいでしょう。しかし、まず「腐っても鯛」という仮定がまちがっています。専門知識や技術が急速に変化している現在、医者のような技術専門職では患者様に満足してもらえるパフォーマンスを発揮するためには「腐っても鯛」ではなく、「腐ったらだめ」なのです。医者には戻れるでしょうが、自分も他人も納得させるプロのパフォーマーには戻れないでしょう。(これと同様に、「Ph.D.をとって研究者としてだめなら、高校の教師にでもなる」という論調を聞いたことがありますが、教育者としてのトレーニングなしに、教師としてパフォーマンスを発揮することは難しいでしょう)

そして、次にこれがキャリアには最も大事なことですが、逃げ道を作っているかぎりプロフェッショナルとしては成功しません。「退路を断ち」困難に直面しなければプロフェッショナルにはなれないのです。「退路を断った」にもかかわらず「多少失敗しても何とかなる」というような根拠のない自信とオプティミズムが(ある意味バカと紙一重ですが)プロフェッショナルとしての成功の必要条件だと思います。

Y先生のメールからは「自信とオプティミズムが」があふれていました。Y先生は絶対に成功します。

テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術

勇気を貰いました
私は腎臓内科透析の臨床経験を5年積んだ後に研究者を志しました。
「どんなに病態生理的に有効であると考えられる治療でも保健適応が無いと行うことができない」
という苦しさを嫌と言うほど味わい、「その為には基礎研究者になること」と志し大学院に入りました。現在工学部に居ます。
正直のところ工学部での同期は10歳年下でスキルは雲泥の差、かなりの困難があります。
医局を無理やりに近い状態で辞めて、臨床を離れ、周囲からは「無謀」と言われましたが、自分で無理だと思ったことは無いです。
島岡先生のような先駆者が居て心強いです。
ブログの記載、著書、論文参照させていただきます!!
【2010/03/17 Wed】 URL // みな #evz02AFw [ 編集 ]

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Motomu Shimaoka

Author:Motomu Shimaoka
島岡 要:三重大学医学部・分子病態学講座教授 10年余り麻酔科医として大学病院などに勤務後, ボストンへ研究留学し、ハーバード大学医学部・准教授としてラボ運営に奮闘する. 2011年に帰国、大阪府立成人病センター麻酔科・副部長をつとめ、臨床麻酔のできる基礎医学研究者を自称する. 専門は免疫学・細胞接着. また研究者のキャリアやスキルに関する著書に「プロフェッショナル根性・研究者の仕事術」「ハーバードでも通用した研究者の英語術」(羊土社)がある. (Photo: Liza Green@Harvard Focus)

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