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■ 天狗笑い


■ 天狗笑い_a0115014_614148.jpg 小沢(こざわ)のきこりが、ひとりで黒森さんに登った。
 切りはらった枝や落ちている枯れ枝をひろって焚き木をつくっていた。
 すると、かーんかーんと斧で木を切る音がこだまする。
 つづいて大きな木が倒れる音と地ひびきがする。
 ばりばりっ
 どし~ん
 だれか仲間がいる。
 そう思って、音のしたほうへ行ってみた。
 ところが、だれもいない。
 大木が倒れたようすもない。
 ひたすら森閑としている。
 変だな?
 と、急に頭の真上から笑い声がした。
 「はっはっはっはっはっはっ」
 首をかたむけて見上げた。
 きらきらとした青い空が見えるばかり。
 だれがいるはずもない。
 「はっはっはっはっはっはっ」
 その青い空から、また笑い声が降ってくる。
 ははぁ~。
 こりゃあ、きっと天狗だな。
 ひとに聞いたことがある。
 天狗笑いとか天狗の高笑いとかいうやつだ。
 きこりは、空にむかって、じぶんも大声で笑った。
 正体はわかっているぞ、怖くはないぞ、とでもいうふうに。
 「はっはっはっはっはっはっ」
 それにこたえて、こんどはもっと大きな笑い声がひびいた。
 「はっはっはっはっはっはっ」
 きこりも、さらに大声で笑いかえした。
 「はっはっはっはっ――」
 まだ笑いが終わらずに、開いた口を天にむけているときだ。
 空いっぱいに天狗の大きな顔があらわれた。
 真っ赤な顔、長い鼻、見ひらいた大目玉に、大きな口。
 きこりは、あんぐりと口をあけたまま見上げていた。
 そのうち足がふるえだす。
 大目玉が、ぎろりときこりをにらみつける。
 きこりは、ごくりとツバを呑みこむ。
 と、もつれる足で駆けだした。
 たまらずに、お山から転げおちるように逃げ帰った。
 ふもとの小沢では、天狗の笑い声は聞こえなかったらしい。
 まして、空いっぱいの天狗の顔など、だれも見なかったという。
 黒森さんの天狗は、ひまをもてあますと、ときどきお山に入ってくる人間をからかう。
 ひどいことをするわけじゃあない。
 せいぜい天狗笑いのような罪のないいたずらだ。


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by miyako_monogatari | 2009-03-03 21:20
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