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■ 腹帯ノ淵


■ 腹帯ノ淵_a0115014_2113997.jpg

 「遠野物語」の石臼の話に、閉伊川の原台ノ淵というのが出てくる。
 これは、腹帯(はらたい)ノ淵のことだろう。
 腹帯は、新里(にいさと)の大字で、閉伊川に沿っている。
 ハラタイの由来には、大きな淵を表わす、ハッタラというアイヌ語によるという説がある。
 また、佐々木四郎高綱という源氏の武将の一族郎党が、この地に滞在したとき、佐々木なにがしの妻がみごもって、着帯の慶事をおこなったためという言い伝えもある。
 「着帯の慶事」というのは、妊娠五ヵ月目の吉日に、妊婦が腹帯(はらおび)を締める祝いごと。
 この腹帯が土地の名になり、ハラタイと読まれるようになったというのだ。
 ハラタイの由来はさておき、腹帯ノ淵には、こんな話がある。
 「遠野物語拾遺」34から意訳してみよう。

 ――閉伊川の流域に、腹帯ノ淵というところがある。
 むかし、この淵の近所の家で、一度に三人もの急病人ができた。
 すると、どこからか、ひとりの老婆があらわれて言った。
 「病人が出たのは、二、三日前に、庭先で小さな蛇を殺したからだ」
 家の人も心当たりがあるので、詳しくわけを聞いた。
 「その小さな蛇は、淵の三代目の主が、この家の三番目の娘を、嫁に欲しくて遣わした使者だ。
 だから、その娘は、どうしても水のものに取られる」
 娘は、これを聞くと驚いて病気になった。
 いっぽう、家族の者は三人とも病気が治った。
 娘のほうは医者の薬も効きめがない。
 約束事だったとみえて、とうとう死んでしまった。
 「どうせ淵の主のところへ嫁に行くものならば」
 と、家の人たちは、夜のうちに娘の死骸をひそかに淵のかたわらに埋めた。
 そうして、いつわりの棺(ひつぎ)で葬式を済ませた。
 一日置いて淵のかたわらへ行ってみると、もう娘のしかばねはそこになかった。
 そんなことがあってからは、娘の死んだ日には、たとえ三粒でも雨が降ると伝えられる。
 村の人たちも遠慮して、この日は子どもにも水浴びなどさせないということだ。


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by miyako_monogatari | 2009-02-08 19:59
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