« [アニメ] ReLIFE | トップページ | やまもといちろう氏のツイッターアカウント凍結で思ったこと »

2018.07.25

LGBTが子供を育てられる社会を

 杉田水脈衆院議員が『新潮45』8月号(新潮社)に掲載した「『LGBT』支援の度が過ぎる」という少コラムが、LGBTを差別しているということで非難する話題をネットでよく見かけた。すでに話題はネットを超えて議員への脅迫もあり、社会問題にもなってきている。
 LGBTの頭文字の解釈と定義は必ずしも明確ではないし、この4点に絞られるかも議論の余地があるが、ここでは以下のように理解したい。

L: レズビアン(女性同性愛者)
G: ゲイ(男性同性愛者)
B: バイセクシュアル(両性愛者)
T: トランスジェンダー(出生時診断性と自認性の不一致)

 LGBT差別は好ましくないことは自明と言ってもよいので、杉田議員への非難という話題としてはわかりやすい反面、少し踏み込むと、わかりにくい面がある。そもそも何が問題なのか。
 まず、該当コラムでもっとも非難されているのは次の部分と言ってよいだろう。


例えば、子育て支援や子供ができないカップルへの不妊治療に税金を使うというのであれば、少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女たちは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。にもかかわらず、行政がLGBTに関する条例や要項を発表するたびにもてはやすマスコミがいるから、政治家が人気とり政策になると勘違いしてしまうのです。

 特徴的なのは、「生産性」という言葉がカッコ付けされていて、通常の生産性という意味からずらして使っているという含みがある。通常、生産性といえば、企業の生産性などを指すと理解してよいので、労働が惹起される。実際、今回の批判では、そうした理解で批判している人も見受けられた。
 しかし括弧された含みは、不妊治療や「彼ら彼女たちは子供を作らない」といった文脈化すると、Reproductive rightsのReproductiveに近いと理解してよいだろう。通常、同用語は「性と生殖に関する権利」が定訳語とされるように、生殖のもつ生産性の含みをあえて避ける形で理解されている。具体的には、中絶や受胎調節など女性の権利を指す。その点からすると、杉田議員の「生産性」が、Reproductive rightsのReproductiveとして理解されているかは必ずしも判然とはしない。
 とはいえ杉田議員の主張は、LGBTは生殖する能力がないのだから、子育て支援に関わる税金は好ましくないという主張のように見えながら、税による生活支援全体が不要であるかのような誘導も感じられる。前者の主張であれば、現実、LGBTに子育て支援されていることはほぼないだろうし、誘導された部分は、端的に市民差別であり、論外としてよいだろう。なお、他面、子育て家庭への税の支援は相対的には、非婚者からの税を再配分している現実もある。
 いずれにせよ、今回の話題について言えば、自明な批判で足りるのかというと、今回の話題のスコープではそれで十分であるようには思われるが、背景にある大きな問題は、むしろ、LGBTが子供を育てられる社会を私たちが形成していくことであり、それに積極な政策が重要になることだろう。つまり、杉田議員の、愚論といっていいだろう主張への批判は、LGBTが子供を育てられる社会への希求へと重心を移したほうがよいだろう。
 ドラマ『13の理由』や『スキャンダル』などでも見られるが、米国では、LGBTが子供を育てられる社会がすでに実現されているので、そこから日本の市民社会が学ぶことも多いだろう。
 あと一点、杉田議員のコラムを巡る話題では、冒頭触れたように、彼女への脅迫が起きている。どのような言論であり、脅迫が社会に表面化する状態は、言論の自由への危機を意味している。
 こうした正義の暴走は現在に限ったことではないが、嫌悪感が正義感に結びつき、その嫌悪対象を排除のための脅迫が実施される心理機構は、正義の自己満足があれ、差別意識と同質の心理機構を形成している。

|

« [アニメ] ReLIFE | トップページ | やまもといちろう氏のツイッターアカウント凍結で思ったこと »

「社会」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: LGBTが子供を育てられる社会を:

« [アニメ] ReLIFE | トップページ | やまもといちろう氏のツイッターアカウント凍結で思ったこと »