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2024.12.04

韓国戒厳令騒動

 2024年12月3日、韓国で尹錫悦大統領が戒厳令を宣布し、数時間後に解除されるという出来事が生じた。この戒厳令の宣布は、韓国国内だけでなく国際社会にも衝撃を与え、その背景には複雑な政治的対立と深い不信感がある。

大統領の意図
 3日夜、尹錫悦大統領は緊急会見を開き、非常戒厳を宣布した。戒厳令は憲法第77条に基づき、国家非常事態において発動が可能である。この条文は、行政機能と司法機能が著しく困難な状況で、公共の安寧秩序の維持のために必要な場合に戒厳を宣布できると定めている。
 尹大統領は会見で、政府機関や国家予算の妨害行為によって韓国が危機的な状況にあると訴えた。野党「共に民主党」が行った政府幹部の弾劾や予算の削減が行政と司法の機能を麻痺させているとし、これを「反国家行為」と断じた。また、大統領は、これ以上の国家の混乱を防ぐためには戒厳令が必要であり、国政の麻痺を解消し自由と安全を守るための「避けられない措置」であると訴えた。

野党の反応
 戒厳令に対する反発は直ちに広がった。韓国国会では与野党の議員が団結し、戒厳令の解除を求める動きが活発化した。特に「共に民主党」の李在明代表は、以前から戒厳令発動の可能性について警告しており、尹政権が弾劾される状況になれば戒厳令の発動に踏み切ると危惧していた。
 戒厳令の噂は9月初めに李代表が与党「国民の力」の韓東勲代表との会談で戒厳令の話が頻繁に出ていると述べたことに端を発する。この発言を受け、尹政権が戒厳令を準備しているのではないかという疑念が広がった。
 李代表の発言に対し、韓代表は「事実なら深刻だが、根拠を示すべきだ」と冷淡に反応し、共同対処には応じなかった。この対応も戒厳令に対する疑念を深める要因となった。また、金炳周議員が8月19日に国会国防委員会で「尹大統領は弾劾されそうになれば戒厳令を宣布するのではないか」と警告したことも布石となり、李代表の発言に繋がった。
 国防長官の人事交代についても、尹大統領に近しい人物が次々と要職に登用されたことが不信感を助長した。特に朴槿恵政権時代に戒厳令が検討された過去があることから、戒厳令の布告は単なる噂では済まされないという見方が広がっていた。

戒厳令の法的基盤
 戒厳令の布告は憲法第77条に基づき、国家非常事態において発動が可能であるが、戒厳施行中の国会議員は現行犯を除いて逮捕および拘禁されないとの規定があるため、国会の解除要求を阻止するには現実的に困難が伴う状況であった。
 非常戒厳は行政機能と司法機能の遂行が著しく困難な場合にのみ発動可能であり、警備戒厳は一般行政機関で治安を確保できない場合に発動される。また、国会在籍議員の過半数の賛成で戒厳令の解除を要求できるため、尹政権が戒厳令を維持するには多くの議員を逮捕・拘禁する必要があり、実行には限界があった。
 金龍顯次期国防長官の任命が北朝鮮との局地戦や「北風」造成を念頭に置いた作戦と見なされている点も、戒厳令準備との関係で注目されていた。

戒厳令の影響
 戒厳令の宣布後、国会は迅速に対応し、190名の議員が戒厳令の解除に賛成票を投じた。韓国国会議長である禹元植は、大統領の行為を「無効だ」とし、即刻解除を求めた。与党「国民の力」も尹大統領に対して戒厳令の取り下げを要請し、結果的に戒厳令は数時間後に解除されることとなった。
 戒厳令の発動とその解除は、韓国の政治情勢における深刻な不安定さと与野党間の激しい対立を浮き彫りにした。国民の多くは、この短期間の戒厳令に対し、過去の独裁政治の記憶が蘇る恐怖を抱いたとされている。戒厳令は国内の政治的対立を一層深め、韓国の自由民主主義の未来に不安を残した。

米国の反応
 VOAが伝えるところでは、米国の外交専門家らは、韓国の尹錫悦大統領が戒厳令を宣言したことにより、北朝鮮の誤判断のリスクが高まっている警告した。この出来事は北朝鮮にとって尹政権の弱さを見せる機会となる可能性があり、挑発行動を起こすリスクがあると、米国元国家情報会議の北朝鮮担当者シドニー・セイラー氏は指摘している。さらに、北朝鮮の金正恩総書記が米韓関係を弱体化させようとする動きが強まる可能性もあると述べた。
 米国政府としては、尹大統領の戒厳令宣言後、数時間以内に韓国との同盟を再確認し、情勢を注視していると述べた。国務省のカート・キャンベル副長官も「米韓同盟は揺るぎないものであり、政治的な紛争は法の支配に則って平和的に解決されることを期待している」と強調した。

 

 

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