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2024.12.08

「97問題」という高齢化社会の現実

 日本における高齢化が進む中、介護問題は家族だけで解決できない段階に達している。「86問題」として80代の親を60代の子が介護する状況が提唱されてから10年以上が経過し、現在では「97問題」として90代の親を70代の子が介護する現実が浮上している。

97問題の現実
 「老老介護」は、高齢者同士が介護を支え合う現象であり、日本の介護世帯において珍しくない状況となっている。高齢者世帯の約半数が配偶者や同世代の家族による介護を受けている現実がある。特に深刻なのは「97問題」と呼べそうな90代の親を70代の子が介護するケースである。この場合、介護を行う子自身も老齢に達しており、健康や体力の低下が著しいため、介護の負担が過重になりやすい。
 70代の息子が90代の母親を介護する場合、息子自身も高血圧や腰痛などの健康問題を抱えていることが多い。親の介護に時間とエネルギーを費やすことで、息子自身の健康管理がおろそかになり、さらなる体調悪化を招く負のスパイラルが発生している。また、90代の親の介護期間が10年以上に及ぶことも少なくなく、介護者が定年後の時間と老後資金をほぼすべて費やしてしまう例も多い。
 「97問題」は家庭内にとどまらず、地域社会にも影響を及ぼしている。高齢者世帯が多い地方では、親子が孤立し、外部からの支援を受けられないまま介護が続く状況が増加している。このようなケースでは、地域コミュニティの崩壊や社会的孤立の拡大が顕著である。

ブラックボックス化する介護現場
 介護施設や在宅介護を支える現場では、慢性的な人手不足が課題となっている。特に特別養護老人ホーム(特養)は需要が高いにもかかわらず、職員不足によって受け入れが制限されている。2023年度には全国の特養施設の約7割が職員不足に直面し、そのうち1割以上がベッドの稼働停止やショートステイ事業の休止に追い込まれている。そしてどうなったか。わからない。ブラックボックス化している。
 特養の入居待機者は多いものの、申し込んでも実際には入居待ちが終わる見込みはないことが多い。また、ようやく順番が回ってきても、介護側の都合で「利用拒否」に近い状況にされる事例が広がっているようだ。職員が足りないため、要介護度が高い人や医療的ケアを必要とする人の受け入れが断られることが多い。ここもブラックボックス化している。このような現状では、特養が本来果たすべき「地域の要介護者の支援」という役割が十分に機能していない。具体的には、要介護度が高い利用者の受け入れが難しく、必要なケアを提供できないケースが多発している。
 在宅介護を支える訪問介護の現場も同様に厳しい状況にある。ヘルパーの人手不足が深刻化し、ケアプラン通りの支援が行えないケースが多発している。訪問介護は高齢者が自宅で生活を続けるための重要なサービスであるが、ヘルパー不足により、その役割を十分に果たせない現状がある。特に地方では訪問介護を利用できる高齢者が限定的であり、介護負担がすべて家族に集中し、そのことで社会から暗渠化される。

資産による介護格差
 現在の介護問題を考える上で避けて通れないのが、資産による格差の問題である。経済的に余裕のある家庭では、高額な民間施設やプライベートケアサービスを利用できるが、資産が少ない家庭では公的サービスへの依存度が高くなる。しかし、公的サービスは人手不足や予算不足により利用が制限されるため、実質的な支援が行き届かない。
 特に地方では、民間施設の選択肢が都市部に比べて大幅に少ないため、資産格差が地域間格差と結びついて問題を複雑化させている。高齢者が介護サービスを利用できない状況は、家族介護者の負担増加や地域コミュニティの崩壊を招く原因となっている。
 介護問題の解決に向けて、多くの政策提言がなされてきた。特養の増設や介護職員の公務員化、ICTや介護ロボットの導入などがその一例である。しかし、これらの提言の多くは実現に至らず、理想論の域を出ていない。
 

 

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