CG映像制作とスケジュール・マネジメントの注意点
- 2016/07/08
読者はスケジュールを立てる際に、顧客の要求する納期やマイルストーンに辻褄を合わせるため、作業の所要期間を納期から逆算して割り振っていないだろうか。
このような希望的観測を元にスケジュールを作成する方法は、確実に失敗する。引用元:長尾 清一
『先制型プロジェクト・マネジメント なぜ、あなたのプロジェクトは失敗するのか』
大人数のスタッフが参加し、複数の工程があり、納期があり、コストや物量・品質をコントロールしなければならない。現代のCG映像制作・VFX制作はマネジメントが必要とされる典型的な「プロジェクト」です。
世の中の多くのプロジェクトと同様、映像制作においても当初のスケジュール通りに終わるプロジェクトというのは少ないように思います。スケジュールが遅れる原因は様々で、スタッフに問題があるかもしれませんし、情報の伝達(コミュニケーション)に問題があるのかもしれません。クライアントによる変更や追加が繰り返され、作業量が膨れ上がるということもあるでしょう。しかし、単に「もともとスケジュールに無理があった」というケースも往々にしてあります。
今回は、プロジェクトマネジメントにおけるスケジュール管理の考え方や注意点を7つのポイントでまとめてみたいと思います。
1. スケジュールを作成する前に、前提を明確にする
精度の高いスケジュールを立てるためには、「スタッフを増員すべき」とか「納期を伸ばすべき」といった判断が必要になります。投入可能なリソースを、正しく把握しなければなりません。以下のような事柄を明確にし、文書化します。
・リソース(ヒト、モノ、カネ)は追加できるか?
・スタッフのスキルは十分か?
・絶対的な納期があるか?
・リソースに制約があり、クオリティーが危ぶまれる場合、納期を交渉できるか?
2. 「工数」と「所要期間」の違いを理解する
スケジュールの精度を高めるためには「工数」と「所要期間」の違いを理解することが重要です。スケジュールは工数だけではなく、所要期間に基づいて計画されなければならないからです。・工数=ある作業にかかる時間
・所要期間=ある作業を完了させるのにかかる時間
・多くの場合、所要期間>工数 となる。
ある工程の作業そのものは1日(8時間)で終わるはずのものだとしても、実際にその作業を完了して次の工程に進むためにはクライアント等のチェックや承認を待つ必要があります。その他、CG制作ではレンダリング時間やデータ整理、コピー、連絡などの時間もかかります。作業以外で経過していく時間を考慮する必要があります。
3. プロジェクトマネジャーが1人で考えてはいけない
プロジェクトマネジャーが1人だけで所要期間を見積もるのは危険です。所要期間の見積もりは必ず主要なチームメンバーの参加のもとに行います。経験豊富なベテランのスタッフに見積もってもらったり、チーム全員が参加する会議を開くのも良いことです。
4. 最善のシナリオと最悪のシナリオを想定する
ベテランのスタッフが作業を担当すれば、その作業は早く終ります。しかし様々な事情により新人スタッフが担当し、学習に時間がかかるかもしれません。このようなリスクを洗い出すことも、プロジェクトマネジメントの範疇です。最善のシナリオと、最悪のシナリオ。その2つを想定し、その間で幅を持たせて検討し、スケジュールを着地させます。
楽観値、悲観値、現実値を組み合わせて計算する手法は、三点見積もり(PERT分析、加重平均見積り)などと呼ばれます。楽観値だけを使ったスケジュールは、トラブルを招きます。
5. クリティカルなタスクを洗い出す
CG制作では、「工程Aが完了しなければ、工程Bを開始できない」というように、調整できない工程の順序があります。こういったタスクの関係性は「依存関係」と呼ばれています。スケジュールをつくるときには、依存関係を把握し、クリティカル(重大)なタスクが何か、洗い出します。各作業の間の依存関係を線で結ぶ「ネットワーク図」を作成することで、タスクの重大性が分かります。
例えばこのネットワーク図では、[作業A]、[作業C]、[作業D]の遅れは、プロジェクト全体の遅れに繋がることが分かります。しかし[作業B]が数日遅れても、全体には影響しません。最も時間が掛かる最長経路は「クリティカル・パス」と呼ばれ、このクリティカル・パス上の作業が遅れると、そのまま全体の遅れに繋がると考えられています。そのため、クリティカル・パス上の作業には第一級のスタッフを配置します。
6. スケジュールを可視化して共有する
一般的にプロジェクトマネジメント・ソフトウェアを使用し、ガントチャートを作成します。ガントチャートはプロジェクト全体を可視化する方法として最適と言われています。
7. 監視し、スケジュールの遅れに対処する
どれほど詳細に作成したスケジュールでも、必ず遅れます。重要なのはその遅れを監視することです。そして「このままでは間に合わない」と明らかになった時点で、適切に対処する必要があります。
◆納期を後ろにずらす
関係各所と交渉が必要です。場合によっては不可能な場合もあります。
◆スタッフを増員したり、外部委託する
有効ですが、場合によりけりです。かえってプロジェクトをさらに遅らせる場合もあり、注意が必要です。
◆遅れを、次の工程で巻き返す
時間を圧縮するため、後の工程での増員が必要になります。
最後に
プロジェクトが終了したとき、教訓を記録を残せば、次の類似プロジェクトで役に立つことになります。
【参考文献】
・G. Michael Campbell. Idiot's Guides: Project Management, Sixth Edition. Alpha, 2014. (G・マイケル・キャンベル, 中嶋 秀隆訳. 世界一わかりやすいプロジェクトマネジメント 第4版, 2015.)
・長尾清一. 先制型プロジェクト・マネジメント なぜ、あなたのプロジェクトは失敗するのか. ダイヤモンド社. 2003.
・G. Michael Campbell. Idiot's Guides: Project Management, Sixth Edition. Alpha, 2014. (G・マイケル・キャンベル, 中嶋 秀隆訳. 世界一わかりやすいプロジェクトマネジメント 第4版, 2015.)
・長尾清一. 先制型プロジェクト・マネジメント なぜ、あなたのプロジェクトは失敗するのか. ダイヤモンド社. 2003.
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