2016年10月10日まで、日本科学未来館で「The NINJA 忍者ってナンジャ!?」展が開催されている。一足早く体験してきた。
「The NINJA 忍者ってナンジャ!?」展は、最新の史料研究や科学的なアプローチから「真実の忍者」の姿を明らかにし、現代に生かせる忍者の知識や知恵を楽しく学ぶという企画展。
総合監修を務めた三重大学人文学部の山田雄司教授は、2012年から三重の地域貢献も兼ねた忍者研究をスタートし、海外でも発表している。山田氏の研究をベースに、歴史、体術、五感、道具、サバイバル術、ミッション遂行術、色と薬、精神力といったジャンル別に、忍者の姿に迫る資料を展示。同時に、忍者の修行を体験できるコーナーや、忍術を楽しむコーナーなどを設けて、忍者とはどういう存在だったのかに迫る展示になっている。
次のページから写真を中心に、この新しさと懐かしさが混在する展覧会の内容を紹介する。日本科学未来館で忍者というのも不思議なマッチングだが、同館の毛利衛館長は、宇宙飛行士としてミッション遂行のための修業に励んだ人物。忍者の修行と宇宙飛行士の修業に通じるものを感じているのかもしれない。
まずは知識で忍者を知ろう
会場を入ると、まずは「忍者研究室」がある。忍者について書かれた数々の本やマンガ、映画のDVDから古文書まで、ありとあらゆる忍者の資料が並ぶさまは圧巻だ。なかでも、伊賀と甲賀の49の流派の忍術をまとめた「万川集海」の原本が見られるのは貴重。この本は、今回の展示の多くの部分に引用されている忍者研究の重要文献だ。2015年に、国書刊行会から、その全文の写真翻刻、読み下し分復刻、現代語訳を1冊にまとめた「完本 万川集海」(6400円)が刊行されて話題を呼んだ。もちろん、その復刻本も展示されている。
忍者修行「跳」「打」「歩」「忍」を体験
続いて、今回の展示のメインとなる「忍者道場」に入る。忍者修行の概略を2分程度のビデオにまとめた解説コーナーを経て、いよいよ忍者の修行場へ。まずは、STAGE1「体をきたえよ」コーナー。ここでは、「跳」「打」「歩」「忍」の4つの修行が行える。
まずは「跳」、「ヒマワリを跳び越えろ!」という修行を体験。忍者は成長の速い植物の上を毎日跳び越えることで、いつのまにか跳ぶ力が鍛えられるという。かつて、筆者が子どものころは、成長の速い植物として忍者が跳んでいたのは麻だったのだけど、時節柄、ひまわりになっていたのが面白い。実際にはひまわりを飛び越すのではなく、赤外線のビームの上を跳び越えるようになっていて、クリアすればチャイムが鳴り、赤外線に引っ掛かるとブザーが鳴る仕組み。3段階の高さを助走なしで跳ぶのだ。
続いて「打」、「手裏剣で敵から逃げきれ!」という修行。これはシンプルに手裏剣を投げて的に当てる修行だ。手裏剣もゴム製で危険はない。的に当たると光が明滅する仕掛けだ。的の大きさがいろいろあり、小さい的に当てるのはなかなか難しい。当たったときの反応が派手なので、大人でもつい盛り上がってしまう。十字手裏剣を投げる面白さは、子どものころから変わらない。
3番目は「歩」、「長い距離を楽に歩け!」。ここは、「なんば歩き」という、昔の日本人の歩き方を学習するコーナー。現在でも歌舞伎の六法などの中に残っている右足と右手、左足と左手を同時に出す歩き方を教えてくれるコーナーだ。なんとなく、通常の歩き方の方がエネルギー効率が良さそうだが、計測した結果によると、なんば歩きの方が長距離をラクに歩けるのだそうだ。
4番目は「忍」、「音を立てずに歩け!」。ちょっとでも音を立てるとサイレンが鳴る廊下を忍び足で歩く訓練ができる。しかしこれが本当に難しい。子どもたちも苦戦していたが、足音を立てたつもりがなくても、微細な音でも失格になる。忍者の修行の厳しさも体験できたような気がした。
針が落ちる音を聞き分けられるか
次のコーナーは「五感をとぎすませ!」。ろうそくの炎を見つめることで視力と集中力を高める訓練、針が落ちる音を聴いて何本の針が落ちたかを当てる訓練、何の匂いかを当てる訓練、触覚だけで箱の中のモノを当てる訓練を体験できる。体力の自信がない筆者のようなおじさんは、むしろ、こういうコーナーで力を発揮する。
STAGE2「技をきわめよ」は、忍者が使っていた道具や技術を、展示品を見ながら学ぶコーナー。そのメインになるのは食と薬。忍者といえば昔から、丸薬になった携帯食を持っていることで有名だが、その丸薬はどういうものだったのか、日々の食事はなんだったのか、伊賀、甲賀に伝わるさまざまな薬草などの実際のモノを見ながら学べるのだ。
7月9日に行われた、当時忍者が食べていたと思われる食事の体験会は、内覧会の前に、すでに満席で締め切られているほどの人気なのだが、それはそうだと思う。食べてみたいよね、忍者食。
滝修行をバーチャル体験
その他、あの水の上を歩ける「水くも」や、城に潜入するときに使う、先に鍵爪が付いた投げ縄、手裏剣、鋭い刃が仕込まれた煙管、指に付ける小さな武器、まるでピッキングの道具そのままの錠前破りの道具などの本物が展示されているコーナーが続く。ほとんどあの“必殺仕事人”が持っているような道具が並んでいるのだ。
最後は、忍者の会話術のパネルや九字の印の結び方を学べる展示などが用意されていて、仕上げとして、滝の中で忍術を使うコーナーが待っていた。やはり修行といえば滝に打たれないと終われない。といっても、実際に滝に打たれるわけではなく、所定の位置に立つと目の前の滝の中に自分のシルエットが現れるだけ。しかし、このシルエット、自分が動く通りに動くし、滝の水はよく見ると全て文字になっていて、シルエットにあたると跳ね返り、流れ、手のひらの上にたまる。これは、ほんとうによくできていた。そして、そこで指定されたポーズを取ると、巨大化の術、手裏剣の術、分身の術が使えるのだ。
これで修行は全て終了。そこには、忍者の認定証がもらえるコーナーがある。この認定証はリピーター割引券としても利用できるようになっていて、次回入場時に大人は100円、子どもは50円が割り引かれる。
グッズをそろえて忍者になりきる
会場を抜けると、そこは忍者ショップ「忍者百貨店」。この展示会の図録でもある「The NINJA ─忍者ってナンジャ!?─ 公式ブック」(1800円)の他、キティとのコラボも含む、オリジナルグッズが並ぶ。また、忍者っぽいオモチャやグッズ、食べ物まで、忍者グッズってこんなにあるんだと驚くくらいの種類がそろっている。短刀の形のケースにガムが入っているお菓子など、まだこういうものが売っているのかと驚いた。もう何十年前から変わらない忍者グッズだ。
また、取材はできなかったが、日本科学未来館の5階「Miraikan Cafe」と7階「Miraikan Kitchen」では、忍者がクエン酸摂取のために持ち歩いていた梅干しにちなんだ「元気回復レモネードの術」(390円)、ゆずパウダーを入れると味も色も変わる「変化! ハーブティーの術」(320円)、忍者の食事にも取り入れられていた黒ゴマを使った「忍者御用達! 黒ゴマdeムース」(430円)、忍者の焼き印を押した今川焼「忍び焼」(180円)も提供されている。
忍者を科学的に検証する研究はまだ始まったばかりだが、残っている資料や史料、道具などから、忍者の正体を科学的に解明していこうという試みの面白さは十分伝わる展示になっていた。子どもを連れていけば、盛り上がること間違いなし。
修行も、跳ぶとか歩くとか投げるとか、とにかくとっつきやすいのが良い。そしてクリアは難しいというのもうれしい。展示を見て興味を持ったら、「完本万川集海」を購入されることをおすすめする。忍者が生きていくための知恵が詰まったこの本は、忍者の就職の仕方、実力の見せ方(つまりプレゼンだ)といった、ビジネス書的内容もしっかりと書かれていて、それがまた現代に役に立つ内容なのだ。
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(文・写真/納富廉邦)
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