大手ハンバーガーチェーン「モスバーガー」を展開するモスフードサービスは、2016年6月、18年ぶりに社長を交代する。創業者の櫻田慧氏の甥である櫻田厚会長兼社長(64歳)から引き継ぐのは、中村栄輔・常務取締役執行役員(57歳)だ。

 中村常務は、1988年に入社してから法務や店舗開発、営業企画本部など本社の勤務歴が長い。創業者の存命中に社長室に勤務するなど、同社の経営を間近で見てきた人物だ。この2年間は櫻田社長を補佐する立場として、フランチャイズチェーン(FC)店との連携の強化や、原材料費や人件費の高騰に伴う2015年の価格改定といった案件にも携わってきた。

2016年6月に社長に就任する予定の中村栄輔・常務取締役執行役員。1988年の入社から、法務や店舗開発、営業企画などに携わり、2014年度から櫻田厚会長兼社長を補佐してきた。57歳
2016年6月に社長に就任する予定の中村栄輔・常務取締役執行役員。1988年の入社から、法務や店舗開発、営業企画などに携わり、2014年度から櫻田厚会長兼社長を補佐してきた。57歳

 6月以降、モスフードサービスの代表取締役は2人体制となる。中村常務が社長として国内事業を中心に指揮を執るのに対し、櫻田社長は代表取締役会長として、海外事業と日本フードサービス協会などの業界活動に注力していく。

 「櫻田社長は、3年ほど前から経営の世代交代が必要と話していた。役員の任期や5年に1回のFCの契約更新の時期が重なる今春が、タイミング的にもいいと判断したようだ」と中村常務は話す。

 社長交代の発表と同時に、モスフードサービスは、2016~2018年度の中期経営計画を発表した。「これまでも売り上げや店舗数の目標を掲げてきたが、数字先行で作ってしまっていた。未達の部分もあり、達成できなかった理由について検証できていなかった」(中村常務)。

 中計をみると、新社長が乗り越えるべき3つの壁がうかがえる。まず、業績目標だ。モスバーガーの国内事業だけでなく、新規事業や海外事業といったグループ全体として、2018年度の売上高は739億円、営業利益は38億円、純利益は23億円とした。2015年度は売上高695億円、営業利益は24億円、純利益は14億円と予想しているため、売上高だけをみると3年間で6%程度の成長を見込む。

 中村常務によれば、モスバーガーの国内既存店の売上高は、対前年で1%ずつの増加を掲げているという。つまり3年間で約3%の成長だ。

 過去の実績は、2013年度は1%減、2014年度は0.6%増、2015年度は直近の11カ月間で7.3%増と推移している。この7.3%増の中身をみると、値上げの影響もあり客単価が10.3%増えた一方で、客数は2.7%減っている。客数の前年割れは13カ月連続だ。

 こうした状況から、売上高について年1%増という慎重な目標を掲げたとみられる。中村常務は「(年1%増というのは)“ひずみ”を生まないで着実に成長していくための数字だ」と説明する。

 ハンバーガー業界の経営環境は依然として厳しい。約3000店を展開する最大手の「マクドナルド」の業績が落ち込んでいる一方で、2015年以降「シェイクシャック」や「カールスジュニア」といった米国発のブランドが日本に上陸し、消費者の関心を集めている。中村常務は「飲食業界の競争は厳しいが、余地はあるはず。成長をあきらめるわけではない」と強調する。国産野菜などを強みとして、全国チェーンへと成長してきたモスバーガーだが、客数の減少に歯止めをかけ、反転攻勢するための起爆剤が必要だ。

次世代オーナーに「覚悟」を求める

 2つ目の壁は、フランチャイズチェーン(FC)オーナーの高齢化だ。モスバーガーのFCオーナーの平均年齢は58歳と高い。マクドナルドのFCが社員の“のれん分け”が中心だったのに対して、モスバーガーは、未経験者でも本社が一から教育し、地域に密着したパパママストアとして増えていった。2016年2月末時点で、国内1372店の約8割をFCが経営する。1997年にはFC店は1413店で、オーナーは最大694人いたが、徐々に減って2016年3月末には1097店、435人となる見通し。個人オーナーと、他の外食チェーンなども経営する法人オーナーの比率は、現状では半々だ。

 オーナーが高齢化する一方で、経営環境は決して楽ではないこともあり、新たに開業を希望する人は減っている。既存オーナーの親族や従業員など、皆が事業承継に積極的というわけではない。だが、後継者がおらず撤退していく店が相次げば、事業基盤が揺らぐばかりでなく、ブランド力の低下にもつながりかねない。そこでモスフードサービスは、オーナーを目指す次世代向けに、必要な知識や心構えを身につけてもらえるような研修を行うなど、10年ほど前から後継者の育成に力を入れてきた。

 さらに2年前からは中村常務が、研修の内容を見直して、オーナーになる覚悟を持たせる内容に改めた。参加者にはいつまでにオーナーになるのか、期限を宣言してもらうようにし、途中にテストも実施するようにした。2016年度からは研修を年1回から2回に増やす方針で、本社とFCの関係をさらに強めて、利益体質の向上につなげていく考えだ。

 「1代目のオーナーは金銭的にも多額のリスクを負って開業することになるが、後を継ぐ2代目にはそうした負担がない分、“ゆるみ”が出てしまうことがある。事業はいいときばかりではない。本当に経営していく覚悟があるのか、経営の価値観を本社と共有できるのか、今後もしっかり確認していく」。中村常務はそう強調する。

新業態の開発・成長は全社体制で後押し

 3つ目の壁は、新業態の開発だ。中計には、モスフードサービス全体で、モスバーガーに次ぐ経営の柱を確立することを明記した。具体的には新規業態である紅茶専門店「マザーリーフ」や和食業態「あえん」などを、3年以内にFC展開できるように経営基盤を構築し、採算性の改善を進めていく。

 これまでモスフードサービスは、数々の新業態に挑戦してきた。ラーメン業態「ちりめん亭」やステーキ・ハンバーグ業態の「ステファングリル」はその代表例で、チェーン展開したものの、収益を十分に上げられず売却している。

 「これまでは新業態に携わっている人だけががんばっている状況になって、結果として成果を生みづらかった。組織を変えて担当者に任せるだけでなく、社長がある程度“干渉”する仕組みにして、全社を挙げてサポートする形にしていく」と中村常務は決意を語る。

 モスフードサービスが今、直面しているのは、日本の外食チェーンが成長し続けていく上で避けて通れない問題の縮図といえる。単一業態が全国チェーンのブランドとして普及した後に、既存店を持続的に伸ばしつつも、次の成長の柱をいかに生み出していくか──。創業家である櫻田氏のイメージが強いモスバーガー。18年ぶりに誕生する新社長の肩には重責がのしかかっている。

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