現代生活と電気は切っても切れない関係だ。電気の安定供給という面で、日本は世界でもトップクラスの実力を持っている。その一方で「災害と停電」が切っても切れない間柄であることも事実。日本中で原発再開の是非が問われる今、電気のある生活について改めて見直していく必要がありそうだ。そこでカギとなりそうなキーワードが「V2H」。でも「V2H」とは何なのか?“防災の鬼”渡辺実氏が迫る。

取材で訪れた関東三菱自動車販売の次世代店舗「電動 DRIVE STATION」
取材で訪れた関東三菱自動車販売の次世代店舗「電動 DRIVE STATION」

 “謎”の「V2H」の実態を調べるべく、今回お邪魔したのは三菱自動車の販売会社である関東三菱自動車販売の世田谷店。実はこの店舗、昨年10月に次世代店舗「電動 DRIVE STATION」として生まれ変わっている。

 マイカーで乗り付けた“防災の鬼”渡辺実氏。車から降り立ってまずひとこと。

「(乗ってきた車が)ホンダ車でごめんね」

 迎えてくれたのは三菱自動車国内営業本部国内企画部部長付の小野勉氏だ。

「どうぞどうぞ、どこのメーカーだろうと構いませんよ。そのかわり、三菱自動車のことも好きになって下さね(笑い)」

 こちらの電動 DRIVE STATIONは最新の「V2H」を体験できる店舗だ。賢明なる“ぶら防”読者であれば「V2H」が何たるかはご存知だとは思うが、念のため簡単な説明を渡辺氏にお願いした。

「『V2H』とは、『Vehicle to Home』の略です。つまり直訳すると『車』から『家』へ。これからの車は走るだけが仕事じゃない。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車は発電機やバッテリーを積んでいるけど、災害時にはこれらを被災生活のために役立たせようという試みです。そこで私がもっとも注目しているのが三菱自動車の『アウトランダーPHEV』なのです」

 自然災害などで停電が起こり、家庭で電気が使えなくなった場合でも、「V2H」の仕組みさえととのっていれば慌てることはない。しかし、まだまだ普及しているとはいい難い状況だ。

「2016年4月に発生した熊本地震では実に48万世帯が停電しました。九州電力給電グループは3600人体勢で復旧にあたり、さらに沖縄から北海道まで全国の9電力会社からも応援が駆けつけた。おかげで完全復旧したのは5日後。『そんなにかかったのか』と思われる方もいるかもしれないけれど、世界的にみたらこのスピードは驚異的です。それだけ日本の電力会社の災害復旧力や技術力は高い」(渡辺氏)

 ちなみに年間の停電時間は1世帯あたり、イギリスが約60分、フランスが約80分、アメリカのカリフォルニア州が約130分なのに対して日本は20分だ。こうしたデータからも分かる通り、日本の電気事情は飛び抜けて優秀なのである。

 とはいえもちろん完璧ではない。電気の絶え間ない供給を可能にする有効なシステムが「V2H」なのである。

PHVとPHEVの違いって知ってますか?

「僕が注目するアウトランダーPHEVは、日本で初のプラグインハイブリッド車です」(渡辺氏)

 話を整理するために、まずハイブリッド車(HV)とプラグインハイブリッド車の違いを充電の観点から簡単に説明しよう。トヨタ自動車の「プリウス」を代表とするHVは、基本的にはエンジンで発電機を回して発電している。このため、HVに搭載しているバッテリーには、外部から充電することはできない。

 一方、プラグインハイブリッド車の場合は、外部からの充電が可能だ。家庭の100Vコンセントや街中にある「充電スタンド」で電気をバッテリーに供給できる。

 そしてプラグインハイブリッド車というカテゴリーに分類される中には「PHV」と「PHEV」と呼ばれるものがある。この違いはどういったところにあるのか。

 結論から言えば、技術的に大きな違いはない。トヨタの「プリウスPHV」とアウトランダーPHEVが現在のプラグインハイブリッド車の双璧だ。これまでの開発の歴史から、両社の考え方の違いが呼称に反映されている。

「トヨタのプリウスPHVは、どちらかというとハイブリッド車に近いイメージです。だからHVの前にPをつけたPHVという呼称を使っています。一方で三菱のアウトランダーPHEVはどちらかというと、電気自動車に近い。だからPHEVと呼んでいるわけです。どちらが優れている、というのではないのですが、プリウスの方はハイブリッドエンジンの補完として電気モーターを使い、アウトランダーの方は電気モーターの補完として内燃エンジンがある、という感じです」(渡辺氏) 

 小野氏がアウトランダーPHEVの実力を説明してくれた。

「アウトランダーPHEVはフル充電の状態からモーターで60㎞の走行が可能です。そしてバッテリーに溜まった電気を使い切るとエンジンが回って発電し、これをいったんバッテリーに充電し、モーターの駆動に使います。そういう意味で、渡辺さんがおっしゃったように、アウトランダーはハイブリッド車より、電気自動車に近いイメージです。もちろん、ガソリンエンジンで走りたいというユーザー様の要望にもお答えできるように、モーターではなくエンジンだけで走るモードを選択することもできます」

 フル充電で60㎞の走行。通勤や日常的な買い物であれば1日にこれだけ走れば十分だ。朝家を出て、夜に帰ってきて充電する。これを繰り返せばずっとガソリンを使わない自動車生活も不可能ではないのだ。

取材に対応してくれた三菱自動車国内営業本部国内企画部部長付の小野勉氏(左)
取材に対応してくれた三菱自動車国内営業本部国内企画部部長付の小野勉氏(左)

被災地にアウトランダーあり

ホンダ車に乗ってきた渡辺氏もお気に入りのアウトランダーPHEV
ホンダ車に乗ってきた渡辺氏もお気に入りのアウトランダーPHEV

 “防災の鬼”渡辺氏がアウトランダーPHEVに興味を持ったのは被災地での出会いからだった。

「最近は被災地に行くとアウトランダーPHEVをよく見かけます。僕が最初に見たのもやっぱり被災地だった。2015年9月。台風18号がもたらした大雨が災いし、茨城県常総市で鬼怒川の堤防が複数箇所で決壊、大洪水となりました」

 渡辺氏も発災直後に水害被災地に現地入りをした。

「夜になると常総市役所の前に5台のアウトランダーPHEVが並べられて、複数の投光器に電気を供給していた。市の職員に聞くと、販売店さんが使ってくれと持ってきたということでした。また、昨年の熊本地震の被災地でもアウトランダーPHEVが活躍していました。派手じゃないけど、こうした地道な社会貢献は実に三菱自動車らしいなと思ったものです」(渡辺氏)

 自分の車を駆って被災地にも出かける渡辺氏は、これまで10台以上の車を乗り継いできた車好きとしても知られる。そんな渡辺氏の解説。

「トヨタのプリウスPHVはバッテリーが車体の後方に集中しています。そのため、プリウスPHVは4人乗り登録になっている。一方三菱アウトランダーPHEVは車体が大きなぶんバッテリーを床に敷き詰めているので、5人乗り登録になっているうえ、重心が低く走行が安定しています。また、防災の観点から見ると、四輪駆動というところも心強い。被災地は悪路が多いので、こうした自動車は助かります」(渡辺氏)

「EV車購入でネックになるのが充電スタンドの量です」(小野氏)

 高速道路のサービスエリアやカーディーラー、一部のガソリンスタンドなどにある急速充電の設備を持った充電スタンドは現在、全国に7000カ所以上ある。年々増えているとはいえ、まだ十分だとはいえない。

「でも、PHEVやPHVは自宅の100V電源から充電(普通充電)できるので外部の充電スタンドを使う必要がありません。また、全く逆の考え方もあります。つまり、大きな災害が発生すると、ガソリンが手に入りにくくなります。東日本大震災の発災直後もガソリンスタンドの前に何kmという車の列ができました。そうした場合でも、アウトランダーPHEVであれば電気だけで走ることができるので慌てないですむのです」(小野氏)

 明日公開の後編では「V2H」の体験レポートをお届けする。

■訂正履歴
本文中、急速充電スタンドの数を「700カ所」としていましたが「7000カ所」の誤りでした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2017/6/16 09:00]
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