不適切会計問題で記者会見した、東芝の田中久雄社長(写真:ロイター/アフロ)

 「東芝の第三者委員会が(不適切会計)問題を網羅的に調べるなら、最低でも2カ月はかかるだろう。3カ月でも厳しいかもしれない。それぐらい難しい案件だ」。

 コーポレートガバナンスに精通する、久保利英明弁護士はこう指摘する。「もし早期に決着するようなら、そのこと自体が問題になりかねない」。

 インフラ関連工事に端を発した東芝の不適切会計問題が、拡大の様相を見せている。同社は5月22日、第三者委員会による不適切会計の調査対象を半導体事業などにも拡大すると発表した。これまではインフラ関連工事における「工事進行基準」での会計処理が問題となっていた。今回、「映像事業における経費計上」と「半導体事業における在庫評価」、そして「パソコン事業における部品取引」などに関する会計処理についても、「検証する必要を認識した」(東芝)としている。

 不適切会計問題に関する第三者委員会を東芝が設置したのは5月15日のこと。元東京高等検察庁検事長の上田廣一弁護士を委員長に、丸の内総合法律事務所の松井秀樹弁護士、元日本公認会計士協会副会長の伊藤大義会計士、山田和保会計士の4人が第三者委員会に名を連ねている。1週間経過し調査範囲が固まった格好だが、具体的なスケジュールは明らかになっていない。

 東芝は第三者委員会の調査結果を受けて2015年3月期の決算を公表し、2014年3月期以前の決算を修正する見通し。冒頭の指摘通りならば6月中に決算を発表するのは困難で、8月以降にずれ込む可能性も出てきた。仮に決算が6月末までに発表できなかった場合、有価証券報告書を期限内に提出できず東京証券取引所の上場廃止基準に抵触する恐れがある。

3カ月要したゼンショーより「複雑」

 久保利弁護士は、牛丼チェーンの「すき家」などを展開するゼンショーホールディングスの労働環境問題に関する第三者委員会を率いた。マルハニチロホールディングスの農薬混入事件を巡る第三者委員会にも参画。「第三者委員会報告書格付け委員会」の委員長も務め、この分野に関する第一人者として知られる。

 ゼンショーでは第三者委員会の設置から調査報告書の発表まで約3カ月を要したが、事業規模や問題の幅から考えると、東芝の方がゼンショーよりはるかに複雑だという。「ゼンショーは国内で問題がほぼ完結していた。東芝は海外子会社も調べる必要がある。仮に100~200人がかりで調べても、3カ月で報告書を出すのは難しいだろう」と、自らの経験に照らして久保利弁護士は話す。

 東芝は4月3日に社内の特別調査委員会を立ち上げ、主にインフラ関連事業の「工事進行基準」で管理している案件を調査してきた。既に9件で問題が発覚し、計500億円の営業損益を減額修正する可能性を示唆している。

 第三者委員会はこの結果を踏まえ、インフラ事業に加え半導体やテレビ事業についても会計処理の妥当性を調べていく。東芝は並行して、「子会社を含め全社的、網羅的に会計処理の適正性を自主チェックする」方針。その過程で、第三者委員会の調査範囲がさらに拡大することも考えられる。

 委員の構成にも疑問が残る。4人の委員のうち2人が過去に東芝と関係を持っていたことが明らかになっている。

第三者委員会設置の「2日前」に顧問解約

 山田氏は2014年6月に有限責任監査法人トーマツを定年退職しているが、東芝グループとトーマツグループとの間には「(監査業務を含まない)一定の取引関係が存在する」と、東芝は明らかにしている。

 松井氏が共同代表を務める法律事務所は、2009年に東芝の連結子会社と顧問契約を締結していた。委員就任に際して顧問契約を解約したとしているが、その日付は「5月13日」。第三者委員会設置のわずか2日前のことだ。

 東芝はプレスリリースで「上記の委員と当社グループとの関係は、第三者委員会の独立性・中立性を阻害する要因とはならないものと判断しております」としている。

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