vetiver











『Tight Knit』Vetiver


昨年(か一昨年)カヴァー・アルバム『Things of the Past』をリリースしたヴェティヴァーのサブ・ポップ移籍後初のアルバム。これがとてつもなく良いアルバムで、アイアン&ワイン、フリート・フォクシーズと続く最近のサブ・ポップのフォークものがかなり充実、というかめちゃめちゃ好みで楽しい。『Things of the Past』は相当マニアックな、通も通好みの選曲で僕はほとんど知らない曲ばかりだったけれど、アンディ・キャビックのジョージ・ハリスンに少し似たおっとりとした優しいヴォーカルと、隅々まで細かく気が配られた端正なフォーク・サウンドにはすっかりやられた。急いで聞いた前々作『To Find Me Gone』も『Things~』同様の穏やかでルーツ愛に溢れるサウンドに満ちた良いアルバムで、老成したサウンド志向も含め、今回の新作も基本的に変わらない。

ゆったりとしたアコギのアルペジオに淡くキーボードとチェロが寄り添う「Rolling Sea」、パーカッションの朴訥としたリズムがキュートな「Sister」、ヴェティヴァー版「Our House」とでも言いたいくらい胸キュンなメロディの「Everyday」の出だし3曲でもうダメ。続く、澄み切ったアコギの響きを中心とした端正なバンド・サウンドが展開される「Through the Front Door」の、終盤のフリューゲル・ホルンとトロンボーンをバックにしたピアノの間奏の美しさで号泣できる。驚異的な曲の良さ。凄まじいメロディ・センス。

とは言え、このバンドに僕が最も魅力を感じているのは、とことん控えめなところだ。熱唱はしないし、変化球も一切なし。好きな音楽への憧憬を隠さずに、ただひたすら良いメロディを書き、そのまま聞かせようという、スカしも着飾りもしないところが良いのだ。交流のあるデヴェンドラ・バンハートにも通じるフリー・フォーク的な「Down From Above」「At Forest Edge」やトランペットやトロンボーン、クラヴィネットを加えて“黒さ”を含ませた「Another Reason to Go」、アラビックなイントロがジョージぽい「Strictly Rule」なんて曲もあるけれど、どれも奇抜さを狙ったわけでも斜に構えたわけでもない素直な音で、最後までずっと気持ちよく楽しく聞ける。10曲とコンパクトなので結局何度もリピートしてしまうが、何度聞いてももたれない、静かな名盤です。



「Through the Front Door」ライヴ。音粗いけど、めちゃめちゃいい。


『To Find Me Gone』から「I Know No Pardon」。



【BEST ALBUM 2009 ロック/ポップス部門】

1. 『Tight Knit』Vetiver
2. 『The Orchard』Fire On Fire
3. 『Storied Places』Kenneth Pattengale
4. 『Easy Come, Easy Go』Marianne Faithfull
5. 『The Good Feeling Music Of』Dent May & His Magnificent Ukulele

毎回1位が変わっている気がしますが、これはベスト10からは外せないなぁという感じ。