Art Official Age / Prince
"20 TEN"から4年ぶりとなるプリンスの新作"Art Official Age"が、彼の新プロジェクトであるPrince & 3RDEYEGIRL名義による"PLECTRUMELECTRUM"と2枚同時というかたちでリリースされた。
久しぶりのアルバムではあるものの、アンディ・アロー"Superconductor"やジャネル・モネイ"The Electric Lady"などほかのアーティストの作品で度々名前を見かけていたし、プリンス、3RDEYEGIRL両方の名義でシングルをいくつかリリースしていたため、コンスタントに活動していたという印象は強い。また、それらのシングル曲はスライ風の「DA BOURGEOISIE」にしろ、レディシを迎えた「Ain't Gonna Miss U When Ur」にしろ、いずれもファンク度高めでキレキレ。新作も同路線だろうとかなり期待して聴いたのだが、冒頭「ART OFFICIAL CAGE」で流れてきたのは、まさかのEDM。そういえば、今年発表したズーイー・デシャネルとの「FALLINLOVE2NITE」はそんな曲だった。
3RDEYEGIRLのベーシスト、Ida Nielsenによる扇動的な語りに、ダフト・パンク"Random Access Memories"で聴けるようなナイル・ロジャース風のギター・カッティング。派手なエレクトロ・サウンドと四つ打ちの直線的なビート。ラップもあれば、ミュージカル調のブリッジまである(ジャネルっぽい)。胃もたれしそうなほどてんこ盛りでアゲアゲなサウンド。「ART OFFICIAL CAGE」は、EDMとオールド・スタイルなディスコを志向した"RAM"とを重ねつつ、ここ数年でプリンス自身が気にしていた音楽を全部詰め込んでみたかのような曲だ。
EDMは11曲目の「FUNKNROLL」の終盤にも登場する。同曲は、"PLECTRUMELECTRUM"にもヴァージョン違いが収録されているが、本作のヴァージョンではヒップホップ的なビートを敷いている。プリンスとこの手のビートの相性は抜群で、ダーティなビートをファンキーに乗りこなす中盤まではとてもクール。それだけに最後のEDM的展開が惜しい。
ヒップホップと言えば、「U KNOW」ではジェネイ・アイコのお姉さん、Mila Jの「Blinded」をサンプリングしている。スウィートに揺らめくサンプルに、ファルセットやテープの逆回転(パープル・レインとジャネル・モネイを思い出す)などを用いてじわりと溶け込んでいくような曲で美しい。さらに、リアン・ラ・ハヴァスの歌声も麗しい「CLOUDS」はウェスト・コースト風のスムース&メロウなファンク。プリンス初期の楽曲と同地のブギー・シーンとが、もっちりとしたグルーヴによって接続されているかのような曲だ。「affirmation I & II」、「affirmation III」、「WAY BACK HOME」の語りもリアン・ラ・ハヴァスが担当している。
そのほかの曲はプリンス・マナーに則ったクラシックなファンク/ソウルが並んでいる。前述のシングル曲から唯一収録されたクールな「BREAKFAST CAN WAIT」、キレの良いカッティングとホーン・セクションがダンサブルな「THE GOLD STANDARD」(「Blurrd Lines」ぽい)といったファンク曲はソリッドで、プリンス絶唱!の「BREAKDOWN」、アンディ・アローが色っぽく歌う2曲のデュエット・ナンバー「WHAT IT FEELS LIKE」「TIME」、"Purple Rain"のワンシーンからインスパイアされた(自分で自分に!)という「THIS COULD BE US」などのバラードはひねりがきいている。良曲揃いだったシングルから1曲しか収録されていないのは納得しかねるものの、2000年代後半以降のものではベストといっていい内容だ。
EDM、ディスコ・リヴァイヴァル、ヒップホップ、R&B。あるいはミラ・Jやリアン・ラ・ハヴァスといった人選。クラシックなファンクやソウルを核としながらも、現在の音楽シーンへと視線を投げかけているところはとてもプリンスらしい。旬なサウンドを捉える鋭い感覚とそれをナチュラルに凌駕してしまう個性の強さ。はっきり言ってEDMは余計だが、そんな曲においても濃厚ににじみ出るプリンス成分が愛おしい。
フェイスブック始めました。KINGとぜひ共演してほしい。
PLECTRUMELECTRUM / Prince & 3RDEYEGIRL
その"Art Official Age"と同時リリースされたPrince & 3RDEYEGIRL名義の初作。2012年にプリンスによって結成された3RDEYEGIRLは、ドラムのHannah Ford、ギターのDonna Grantis、ベースのIda Nielsenの女性3人組。Hannah Fordの夫、Josua Weltonは今回の2枚のアルバムのプロデューサーのひとりでもある。
"Art Official Age"がファンク/ソウル・サイドだとすれば、このアルバムはロック・サイド。それも圧力の高いバンド・サウンドによる直球のへヴィなギター・ロックだ。これもまたプリンスではあるものの、"Art Official Age"と続けて聴くと、同作制作のストレスを解消するためにやっているかのように思える内容で、(こちらが勝手に抱いていたものではあるが)ミステリアスな美女バンドというイメージは裏切られる。そんななか、Lizzo、Sophia Erisというミネアポリスの女性MC二人がフィーチャーされる「BOYTROUBLE」、ファンキーなバラード「STOPTHISTRAIN」、プリンス・ヴァージョンよりも曲名に忠実な「FUNKNROLL」の3曲は良い意味で浮いていて、ほかの曲にもこれくらいの黒さがほしかった。なお、「ANOTHERLOVE」はアリス・スミス「Another Love」のカヴァー。これもいまいちだけど。
コメント