というわけで、ジャネル・モネイの新作(鬼の傑作)の続きである。
8. Neon Gumbo
2曲続いたファンク曲から、場面を変えるように、インタールード的に挟まれた短い曲。プリンス『Purple Rain』のワンシーンに、イメージを喚起されたという。
『パープル・レイン』は、プリンスやザ・タイムの演奏シーンやモリス・デイの演技は面白いのだけれど、映画としては酷い出来で、プリンスの演技には終始ヒヤヒヤさせられる。モネイが挙げているシーンは、主人公キッドがアポロニアと初めてセックスをするシーン。ライヴ終了後、アポロニアはプリンスの部屋(実家)に行く。置いてあるカセット・プレイヤーのスイッチを押すと、奇妙な音楽と一緒に女性のあえぎ声が流れてくる。アポロニアがキッドに聞く―「So Who's the lucky girl? Sounds like she's having a good time.」。するとキッドがこう答える―「She's crying. It's backwards.」。泣いているのを逆再生してるんだ、と。
で、当然この「Neon Gumbo」を逆再生してみた。いやぁ、鳥肌が立った。音源は載せられないので、このフリーソフトでぜひお試しあれ。
9. Oh Maker
ファンキーな曲が続いたが、もちろんモネイはソウルを歌わせても絶品なのである。「Oh Maker」は、アルバム中、最も癖の無い、素直なソウル曲だ。センチメンタルなサビのメロディーを、切々と歌い上げるモネイに心を打たれる。アリス・クラークの「Never Did I Stop Loving You」(7月に未収録曲入りの新編集盤出る!)を思い出したが、今ならクリセット・ミシェルなんかを引き合いに出してもいいかもしれない。
インスピレーションのもとになったものとして、『フランケンシュタイン』と『ゴーレム』を並べて挙げていることから分かるように、モネイが哀愁込めて歌うのは、報われない恋の歌である。アンドロイドもフランケンシュタインの怪物もゴーレムも、人間と関わることは悲劇を呼ぶのだ。ここでもシンディは恋する相手グリーンダウンに会えない状況のようで、しかも相手は死んでしまったと読めるが、それはどうなのだろう?
もうひとつ、キャサリーン・バーンハートという名前が挙げられているけど、これはよく分からない。有名なカナダのアーティストらしいが。
10. Come Alive (The War Of The Roses)
ロックンロールというかネオ・ロカビリーな、異色曲。インスピレーションを受けたものは「primal scream therapy session at The Palace of the Dogs」。「The Palace of the Dogs」とは、「Tightrope」のMVが撮影された、あの病院のことらしく、「primal scream therapy」は「原初(の叫び)療法:幼児期の抑圧を解放する精神療法」(goo辞書)のことだそうだ。
ジャネル・モネイによると、「The Palace of the Dogs」は、「which is a place where a lot of great artists have studied, from Jimi Hendrix to Prince and Miles Davis」とのこと。「Tightrope」のMVの最初に説明が出てくるが、そこでは踊ることが禁止されており、「Tightrope」のダンスは抵抗のダンスなのだそうだ。
11. Mushrooms & Roses
ドラッギーでサイケデリックな曲。ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトの口髭にインスピレーションを受けたというが、これを聞いてまず思ったのは、ビートルズ中期のサイケなジョン・レノン曲であり、プリンスにとっての『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』と言われる『Around the World in a Day』だった。
・・・何とどちらも口髭がある!
そしてビートルズと言えばマッシュルーム・カット!
さらに、プリンスの同アルバムに収録されている「ラズベリー・バレー」のラズベリーはバラ科!
「マッシュルームズ&ロージズ」は「ビートルズ&プリンス」だった!ってまさかねぇ。
いや、あると思います。
(追記)
書くの忘れてた。
この曲の歌詞では、“ブルーベリー・メアリー”がシンディに恋をしていることに触れられている。「She's a wild man」とも言っており、ジェンダー/セクシュアリティの観点からも面白い。
ということで、ここまで。次で最後の予定。逆再生は褒めてほしい。
コメント
コメント一覧 (2)
モネイがtwitterで最近、家族の集まりに出たってtweetをしてましたよね。で、もちろんタイトロープやってーって言われた、そしてみんなでもやった、ってエピソードと、「Slow danced with My mother to "oh maker", one of her favorite songs」ってエピソードを紹介してて、いいシーンやなぁ、そうそうoh, makerってそういうところに響いてくる曲やなぁ、と。
このアルバムについてぼんやり考えていて、ブラックミュージックってジャンルをとっぱらって、ポップミュージックの歴史の中においたとき、曲とかサウンドのオリジナリティとかの評価は正直よく分からない。でも少なくとも、こういう「いい曲」群(それもヴァラエティに飛んだ曲群)が、このボーカルで聞けた、って点は、ほんと素晴らしい、楽しく夢中にさせてくれる事態じゃないのかな、と思います。+それをやるのに、またアルバムとしてまとめあげるのに、あういうキャラクターやコンセプトが用いられた、必要とされた、というのがとても興味深い。
「何とどちらも口髭がある!」はかなりウケましたw
そして、逆回転をリバースしてみる行動力w!
さっそく私もやってみました。あれって(半分ネタばれっぽい話になってしまいますが)The Auditionから続けて用いられているモチーフですよね。世界観を設定していく、道しるべになったようなものなのかも。てか、今回のアルバムを聞くと、それこそリバースエンジニアリング的に、The Auditionは興味深いですよね。
モネイのツイートも読みました。いい話ですよね。
oh, makerもそうですけど、このアルバムがブラックミュージック最新型だとかは僕も思いません。僕も過去のアルバムを例に挙げて語っているわけですし、メインストリームのR&Bに比べたら、むしろオールドファッションなものであるとすら思います。
が、このアルバムが素晴らしいのは、そのバックグラウンドにある音楽の幅と、それを未来&アンドロイドっていうコンセプトでまとめあげたことだと思います。junさんがおっしゃる通り。それと、過去の黒人音楽を参照にしながら、インディ・ロックとかアフロビートとかディズニーとかの色んなものを、無理なく混在させたことかなと。それもコンセプトがあったから、だと思うのですが。まぁ、何より歌がめちゃめちゃ上手いし。
口髭を思いついた時は、自分の発想力が怖くなりました。嘘です。何かつながりを探しているうちに、どうでもいいことが重要に思えてきて書いてしまったまでです。でも逆回転はキタ!って感じでしたけど。そうそう、お馴染みのあのイントロでしたね。『オーディション』ももうちょい聞きこんでみる必要がありそうです。