三十も後半にさしかかり、なんの変化もないまま歳だけを重ねた。
おじさんという名の少年が独身のまま、老体になろうとしている。
◇ ◇ ◇
時は2013年――。
少しだけ薄暗い影が落ち始めた、そんな頃だった。
漠然とした夢と希望を抱え、東京へと足を踏み入れたのが私だった。
当時の六本木には、まだ関東連合の「六本木クラブ襲撃事件」で有名になったばかりの
ロアビルが存在し、黒人やクラブに集まる若者でひしめく強烈に危険な香りがする場所だった。
すべてが鮮明で、新鮮で、夜の誘惑は凄まじく。
それだけで、それらの刺激を消費するだけで、毎日がエキサイティングで
人生として、人として成立している実感があった。
そんな時期だった。
一生懸命働いていれば、何かが起きて大きな変化が訪れる。
スーパーの前を通り
ひとり "半額シールの貼られた惣菜" を買うスーツ姿の中年男性を見て、
「なにが楽しくて、そんな生活をしているのだろう?」
そんなふうに本気で思っていた。
◇ ◇ ◇
三十も後半に差し掛かる、いま。
独り身のまま、ここまで来てしまった。
世間一般のサラリーマンの年収の上位数パーセントには入るレベルになった。
けれど、未だに中身は未熟なまま、
すべて嘘に聞こえ、自ずと語ることを辞め。
"かつての自分が疑問に思った人生" を、いつのまにか歩んでいた。
体が錆びつき、脳もサビつき、思考も知覚も気力もすべてが鈍化し
無理をして頑張ってみても、何をしても疲れがやってきて
気力は失われ、楽しくもなく、期待以上の自分も出てこない。
国破れて山河在り 増田さんは 夢破れて、「何」が在りますか。 もっと気楽に生きようよ。