雄性不稔
ところが、最近読んだ「タネが危ない」には、現代のF1品種の多くは、奇形の一種である雄性不稔の花を使うと書かれていました。雄性不稔とは、雄しべが無かったり、あっても花粉が無かったりして、花粉が機能出来なくなった花の一種です。突然変異で現れる自然には非常にまれにしか現れない奇形です。この雄性不稔の花を利用すれば、除雄の必要が無いと言う利便性以外に凄い・・恐ろしい特徴があります。
雄性不稔性はミトコンドリア遺伝子の異常です。このミトコンドリア遺伝子(・・核ではなく、ミトコンドリアが持っている遺伝子・・・ミトコンドリアは実は核と同じように遺伝子を持っていたのです。・・)は母系遺伝です。雌しべから子に代々引き継がれます。つまり、ミトコンドリア遺伝子はメンデルの遺伝の法則が成り立たず、母方遺伝100%、父方遺伝0%で子に現れるのです。それを利用して、ミトコンドリア遺伝子以外は、ほぼ父方と同じ形質の雄性不稔花を作れるのです。つまり一つの雄性不稔で、その雌しべと交配可能な全ての品種の雄性不稔を作る事が出来、F1品種を作り出せるのです。
その方法は、戻し交配[backcross]を繰り返す 連続戻し交配[Linebreeding]と言う方法です。アブラナ科の雄性不稔因子は、大根で発見されました。これでこの大根と交配可能な同じアブラナ科の雌花を全て簡単に雄性不稔化出来るのです。例えば、雄性不稔の大根を利用して、同じアブラナ科のキャベツを雄性不稔化したければ、先ず、雄性不稔の大根の花の雌しべにキャベツの花粉を受粉させます。この大根の雄しべは機能しませんので、キャベツの花粉はミツバチ等を使って簡単に受粉出来ます。この雄性不稔の大根の花からは、大根とキャベツ、半々の遺伝子を持った種が出来ます。その種を植えれば、雄性不稔は母系遺伝なので、大根50%、キャベツ50%の遺伝子を持った雄性不稔の花を咲かせます。その雌しべに(・・雄しべは機能しません・・)更にキャベツの花粉を受粉させれば、(再び同じ雄しべを交配させる「戻し交配」)よりキャベツに近い、キャベツ75%(大根25%)の種が出来ます。その種から咲く花もまた母系遺伝で雄性不稔ですから、そばに大根を置いてミツバチなどに受粉させれば、キャベツ87.5%(大根12.5%)の種が出来ます。・・・このように交雑で出来た雄性不稔の花の雌しべにキャベツの花粉を次々に受粉させれば、計算上10回で、キャベツ99%以上(大根1%未満)の雄性不稔花が作れます。即ち、ほぼキャベツと言える種を雄性不稔化出来るのです。
雄性不稔はF1品種を作る場合の簡単で確実な方法です。そして、咲く花は雄性不稔で自家採種出来ないと言う、F1品種を生産している種子会社にとっては、非常に有効な方法かも知れませんが、自然の摂理から考えたら、とんでもない事をしている事になりましょう。
雄性不稔の花は見るからに異常で貧弱な花だそうです。それはそうです。花粉を作れない「奇形」なのですから・・・花粉が機能出来無くて自家受粉出来ない奇形の花を、わざわざ交配させて、あらゆる品種に雄性不稔性を持たせているのです。・・・これを恐ろしい事と言わずにいられましょうか?(・・もしかしたら、雄性不稔の最初は放射能による奇形だったかも知れません。3.11移行、雄しべの異常な花は沢山見つかっています・・)
種苗業界はこの、雄しべの機能不全によって自家受粉出来ない雄性不稔花を、あらゆる種類の作物に広めてF1品種を作っているのです。これはひとえに種苗業界のエゴによる生態系の破壊と言えましょう。自家採種を不可能にして毎年種を買わせて確実にお金を儲けるのです。
バイオテクノロジーによるターミネーターテクノロジーの自殺する種よりはましと言えるかも知れませんが、このような事が許されていいのでしょうか?・・少なくとも自然の摂理からは大きく外れているでしょう。種苗業界にもモラルが無くなったと感じるのは私だけではないでしょう。雄性不稔の異常花が、様々な場所で様々な作物で普通に見掛けるようになったら世も末です。
参考文献
タネが危ない 野口勲 著 ・・ 野口種苗研究所代表
日本経済新聞出版社