種を採って蒔く権利
19世紀イギリスでは、自分が所有する系統の穀類を、他の人が無断で採取して繁殖させたとき、処罰を受けると警告した人物がいるそうですが、そんな特許は認められず、彼の野望は失敗に終わったそうです。・・・当然の事でしょう。動物の例でいえば、買った動物が子供を産むときも孫を産むときも、子孫代々産むときに、最初に売った人に断って許可を得、お金を払わなければならないなんて言っているようなものです。
しかし、食を支配しようとするモンサントをはじめとする多国籍バイオ化学企業は、お金を儲ける為にそんな理不尽な事を本気で企んでいるのです。一度種を買えば、それ以降は自分達だけで自家採種して種を作る事が出来る・・・と言うごく当然の伝統的営みを妨げる為に特許を取り、探偵を雇って違反行為――自家採種した種を蒔いて作物を育てると言う伝統的行為――に重い賠償金を支払わせると言う暴挙に出ました。
品種が離れた2種類の植物を掛け合わせてつくる交雑種子は第一世代(いわゆるF1)では望みの遺伝形質を発現しますが、F1交雑種から取られた種は、うまく繁殖する事も出来ないし、F1と同じ遺伝形質も発現しません。20世紀の初頭にこのF1品種が開発され、「雑種強勢(雑種第一代が両親の何れよりも優れた形質を示す現象)」と言う宣伝文句に踊らされて、農民は交雑種子F1を購入し始めます。これが企業による種の支配の始まりでしょう。
モンサントをはじめとする多国籍バイオ化学企業は、F1品種だけでは不安だったようです。後に遺伝子組み換えで作った作物の特許を取得していきます。(F1は交雑であり、遺伝子組み換えではありません。)そして20世紀の終わりの頃にとうとう交雑種よりも強力なターミネーター・テクノロジーを開発します。ターミネーター・テクノロジーとは、種子に致死性タンパク質を作る遺伝子を組み込み、1世代目は播くと成長して採種も出来ますが、2世代目になるとこの遺伝子が特定の環境条件で発現し致死性タンパク質を生成して、種子が成長するのを阻止する技術です。つまり2世代目はいわゆる「自殺する種」になるのです。この技術によって、遺伝子組み換え作物の種子の自家採種が出来なくなり、農家は毎回バイオ化学企業から種を買わなければならなくなります。・・・とんでもない事です。
こんな事が許されていいのでしょうか?・・・このような狂った事を政府が許可するべきではないでしょう。アメリカ政府がこんな事を許可したのは、20世紀の最後の20年くらいの日本との激しいハイテク経済競争で、農業に関してもアメリカが優位を維持する為に、遺伝子工学に規制をかけなかった・・・と書いている文献は見掛けます。この理由も否定は出来ませんが、あくまで表向きの理由でしょう。実情は、企業と政府との強い癒着があったのです。モンサントの元社員や、モンサントに繋がりの深い人物が、モンサントのようなバイオ化学企業を監視する政府の官僚機構に沢山入り込んでいます。そしてアメリカの官僚も、モンサントなどの企業に沢山天下っているのです。アメリカに限った事ではありませんが、政府の優先事項は、市民の安全を守る事では無く、産業界の利益を守る事になってしまっていると言うやるせない現実があるのです。
モンサントなどは、企業努力で開発したのだから、当然の権利である、モンサントのテクノロジーは社会に貢献している・・・のようなプロパガンダ活動を盛んに行っていますが、そんなテクノロジーもそれを売りにする企業も社会に必要ある筈がないでしょう。必要ないどころか、あってはならないでしょう。原発と並ぶくらい危険なバイオテクノロジー、特にターミネーター・テクノロジーなどが、何故社会に貢献していると言えるのでしょうか??社会を破壊して文明を破局に導いているとしか思えません。
種の品種改良が必要だとしても、それは公共の農業試験場などでやるべき事で、改良された種は、農家等に安く配付されて然りでしょう。改良された品種に関して、民間企業が特許を取ったり、規制したり、挙げ句の果ては、自殺する種を作ったりする行為は、反社会的行為、文明崩壊を促進する行為と言えましょう。
TPPで日本にも遺伝子組み換え作物がどんどん入って来ようとしています。ターミネーター・テクノロジーの種もどんどん入ってくる勢いです。・・実際には、もう既にかなり入り込んでしまっているようです。遺伝子組み換え作物、ターミネーター種が日本に蔓延して、モンサントをはじめとする多国籍バイオ化学企業に日本の食が支配されれば、日本は農業だけでなく、国そのものが衰退してしまうでしょう。
その為にも、農家に限らず、昔ながらの自家採種をすべきです。私も今年は野菜の自家採種に挑戦します。(西瓜や瓜等は、昔から買って食べた後に採取して蒔いたりして来ました。果物の木やアスパラなどは、自家採種・・と言うか、種がこぼれて庭で自然増殖してます。)
参考文献;遺伝子組み換え企業の脅威
-モンサント・ファイル― 日本語訳 緑風出版