「それすごいね。でも初めて聞いた」。旧知のユーザー企業数社の担当者に対し、UHF帯ICタグ(RFID)に関する制度改正に関する意見を聞いた時の反応である。いずれもICタグの導入にかつて関係していたか、現在かかわっている人たちだ。
ICタグの制度改正は、総務省が2010年5月24日に実施した。主な改正点は2点ある。まず、ICタグに割り当てた周波数帯を拡張した。従来は950M~956MHz帯だったのを、950M~958MHz帯に広げた。もう一つは、場所の制限がなく読み書きができ、読み取り距離の長い「中出力型」のICタグシステムの利用を可能にしたことである。
記者は、今回の制度改正は非常に大きなインパクトがあると考えている。ICタグをすでに使っている現場はタグをより使いやすくなり、利用の範囲も拡大しやすくなるだろう。これまでICタグにメリットを感じず、導入していなかった企業が、今回の改正をきっかけに利用を検討し始める可能性もあるとみている。
山積みになった箱のタグを一括して読み取り可能に
制度改正で大きいのは、「中出力型」を利用できるようになったことだ。中出力型のICタグは場所の制限がなく読み書きができ、読み取り距離が2メートルと長い。この特性を生かせば、山積みになった箱に貼ってあるICタグでも、読み取り機をかざすだけで、一括で読み取れるという。
読み取り距離の短い従来の「低出力型」UHF帯ICタグでは、こうしたことができなかった。担当者の一人は「従来は、どこにICタグが貼ってあるかを目視で確認した上で、読み取り機を近づけていた。これではバーコードに勝るメリットが少ない」と話す。実際、「低出力型ではUHF帯ICタグの導入に踏み切れない、中出力型があればすぐに使いたい」と、中出力型の制度化を総務省に訴えたユーザー企業もあったという。
UHF帯ICタグには距離の長い「高出力型」もある。高出力型のタグを使えば一括読み取りは可能だ。ただし距離が飛びすぎて、関係のないICタグまで読んでしまう恐れがある。加えて、工場内など登録した場所でしか使えないという不便さがある。
これに対し、中出力型は場所の制限がないため、例えばトラックの荷台の入り口に中出力型の読み取り機を設置しておいて、荷物を積むだけで読み取りが完了する。同様に荷物を下ろす際にも読み取り、検品作業を簡素化するといった可能性もある。
周波数帯が広がるメリットも大きい。読み取り装置であるリーダー/ライターとICタグ間の通信チャンネルを多く確保できるようになるからだ。チャンネルが多ければ大量のICタグを一括で読み取る際に、通信に使うチャンネルが競合する確率が低くなり、読み取り開始から終了までの時間短縮が見込める。中出力型と合わせると、さらなる作業の高速化や効率化が期待できる。
総務省は、周波数帯を958MHzからさらに2MHz広げることも検討している。それが実現すると、ICタグの使い勝手はさらに上がるだろう。
現場の“新しい武器”になり得る
記者は2002年から2005年ころまで、多くのICタグに関する取材や記事執筆をしていた。当時は経済産業省がICタグの普及を積極的に後押ししており、導入事例が相次いでいた。その後、編集部の異動などもあり、今回の制度改正でICタグと再会するまでに4年のブランクがあった。
制度改正のインパクトは大きいと感じながらも、4年のブランクがあると確からしさに今ひとつ自信が持てない。そこで当時の取材先、特にICタグを導入していたユーザー企業の担当者に、中出力型や周波数帯拡大のインパクトを聞いてみた。それが冒頭の発言である。「初めて聞いた」という反応が複数の担当者から返ってきたことに、記者は愕然とした。
反応はいいが、そもそも知らない。この一件があり、UHF帯ICタグの制度改正に関する情報を正しく伝えたいという気持ちを一層強くした。宣伝で恐縮だが、日経ニューメディアでは、2010年6月30日にUHF帯ICタグに関するセミナー「業務効率化の本命登場 新制度で生まれ変わるUHF帯ICタグ」を開催することに決めた。
制度改正のインパクトを分かってもらうには、制度改正の解説だけでは足らない。そこで現場ですでにUHF帯ICタグを実際に使っている企業の担当者に、中出力UHF帯ICタグがどれだけ現場の“新しい武器”になり得るかを語ってもらうことにした。その1社である積水ハウスは、すでに中出力型の導入を決めているという。
ユーザー企業にヒアリングしたところ、最近では付き合いのあるSIerがICタグに関する情報をあまり伝えなくなっているようだ。ユーザー企業の関心を高めるには、SIerの関心を高める必要がある。セミナーでは、どんな業務アプリケーションで中出力型が適用できるのかや、現場適用時の読み取り機を扱う技術ポイントも専門家に解説してもらう。SIerの方にも関心を持ってもらえるはずだ。
中出力型の普及が進めば、ICタグや読み取り機のコストが下がる。コストが下がればより導入が進み、企業の効率化が進む。鶏と卵の関係ではあるが、こうしたサイクルを動かす一助になりたいと考えている。