出資が行われた2013年当時、一体誰がこの復活劇を予想しただろうか。ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は、2023年8月18日、筆頭株主である官製ファンドのINCJ(旧産業革新機構)がルネサス株の一部を売却。同ファンドの保有割合が10%を下回ることにより、主要株主に該当しなくなると発表した。
日本の大手半導体企業が大同団結して設立したルネサスの深刻な業績不振とその後の官製ファンドを中核とする救済について、当時はうまくいかないと揶揄(やゆ)する声が多かった。だが、出資から約10年、官製ファンドとしては極めて良好なリターンを確保してエグジット(投資資金を回収)するという理想的な展開となった。
ルネサスは、三菱電機および日立製作所から分社化していたルネサステクノロジと、NECから分社化していたNECエレクトロニクスの経営統合によって、2010年4月に設立された。ところが、業績が低迷。産業革新機構が出資を行った2013年9月当時、時価総額は2000億円を下回る水準だった。
それが今では時価総額が5兆円前後まで増加してきている。昨今の半導体企業への高評価もあるが、それでも業績回復および事業拡大を実現したルネサス経営陣の経営手腕は高く評価されるべきだ。
大成功となったルネサスへの投資
2013年には経営危機に陥ったルネサス。そこに財政状態を抜本的に改善すべく、産業革新機構の1383億円を筆頭に日本国内の有力企業が合計1500億円をルネサスに出資した。この出資が好感され、その直後から時価総額は1兆円を超えるまでに増えた。
その後も株価は堅調に推移し、産業革新機構が段階的に株式を売却しても株価が大きく下落することはなかった。結果として、今回の8月の売却までにINCJが得た売却収入は1.4兆円を超え、出資額の約10倍の投資リターンを確保できたことになる。
業績も順調に回復した。2011年度の売り上げは4710億円にまで落ち込んだが、その後に回復。半導体市場の市況の影響は受けるものの、着実な利益計上を実現している。
2020年以降は半導体需要の急増と、2017年以降に次々と買収した米Intersil(インターシル)と米 IDT(Integrated Device Technology)、英Dialog Semiconductor(ダイアログ セミコンダクター)など7つの企業の売上貢献があり、2022年の売上高は1.5兆円に、営業利益も4241億円と前年の2.4倍となった。
大型買収を行った際に懸念された財政状態の悪化もものともしない業績拡大だ。確かに2019年には有利子負債は増加したが、資本とのバランスはうまくとれている。健全な財政状態の指標であるDER(Debt Equity Ratio;負債資本倍率)も0.6倍程度と、今後に積極的な事業展開を行ったとしても問題のない水準だ*。