東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS、川崎市)が小型原子炉「MoveluX(ムーブルクス)」の開発を進めている(図1)。いわゆる小型モジュール炉(SMR)の一種で、主要部品は海上コンテナわずか2個分の体積に収まる。小型かつ高温を取り出せるのが特徴で、建設地の選択肢が広がる他、燃料交換なしで長期間運転できる。へき地における電源や水素製造の熱源としての利用を想定する。
「あらゆる場所で利用可能な高効率原子力電池」――。東芝ESS磯子エンジニアリングセンター原子力先端システム設計部エキスパートの浅野和仁氏は、同原子炉についてこう説明する。その仕組みや構造は、原子力発電所で主流の大型軽水炉と比べて、大きく異なるという。
MoveluXでは、高さ6×直径2.5mの原子炉容器(RV:Reactor Vessel)をコンクリート製の地下室に配置し、発電設備を地上に置く。燃料交換なしで約20年間稼働させる構想で、熱出力10MW、電気出力3~4MWほどを想定している。一般的な大型軽水炉が電気出力1GW程度なのと比べると、数百分の1の規模である。
同社がこの新型小型炉の開発に着手したのは2016年ごろ。現在はシミュレーションによる概念設計が固まった段階で、今後、試作品を使った本格的な実証実験が始まる。詳しい実用化の時期や建設費用は公表していない。
炉心断面はまるで「蜂の巣」
大型軽水炉では、冷却材を兼ねた減速材として軽水(普通の水)を使うが、MoveluXでは軽水ではなく水素化カルシウム(CaH2)を減速材として用いる。原子炉としては珍しく、冷却にはヒートパイプを採用する。
MoveluXの炉心断面を見ると、六角形の燃料と減速材が、蜂の巣のように同心円状に交互に配置してある(図2)。燃料は1つが幅10cm、高さ5cmほどの大きさで、それが積み重ねてある。燃料と減速材の間にあるのが長さ5~6mのヒートパイプ。炉心全体に230本ほど配置してあり、炉心上部の熱交換器とつながっている。
ヒートパイプは、パソコンのCPUクーラーなどにも使われる身近な熱輸送装置だ。「ヒートパイプ自体は珍しいものではないが、それを用いた原子力システムという点が新しい」(東芝ESSの浅野氏)。CPUクーラーなどでは作動液に純水を使うが、700℃以上の高温を取り出すMoveluXでは、沸点が約880℃のナトリウムを用いる。
ヒートパイプを使うメリットは、蒸発と凝縮が連続する自然循環によって炉心の熱を輸送できる点にある。軽水の循環にポンプを使う大型軽水炉とは違って冷却に電源を必要としない。外部の駆動装置なしに受動的に炉心を冷却できるので、原子炉の電源を喪失しても冷却を継続でき、安全性を高められるとの発想だ。