人手不足に伴って建設現場での効率化が求められており、ICT(情報通信技術)施工の普及が加速する。一方で、これまで現場と無縁だったサイバー攻撃のリスクが高まっている。もしもICT建機の制御操作をハッカーに狙われたら、死亡事故などの大惨事を招きかねない。
「ICT施工による効率化を最大限に発揮するためには、ネットワーク化が欠かせない。ICT施工の拡大とサイバー攻撃対策を、同時並行で展開していくことが肝心だ」。情報セキュリティー業務に長年携わってきた、安藤ハザマ経営戦略本部の高馬洋一副本部長は、こう話す。
ICT施工では、あらゆるモノがネットワークにつながる「IoT」機器を用いて、建設現場をネットワーク化する。例えば、建機を遠隔操作する「無人化施工」。従来は現場に近接した場所で、無線通信を用いて操作する手法が主流だった。現在は、ネットワーク回線の他、全地球測位システム(GPS)をはじめとする全球測位衛星システム(GNSS)に接続して、現場から離れた場所で操作する技術が登場している。
このようなIoTの活用で、外部のネットワークと接続する建設現場が増えており、ハッカーの侵入経路は拡大。普段外部との接続がなくても、システムのアップデートでインターネットに接続するときに侵入されるリスクがある。
「ネットワーク化自体は、悪いことではない。想定される脅威をしっかりと分析して、必要な対策を講じることが重要だ」。制御装置のセキュリティー業務に携わるトインクス(仙台市)の営業本部営業推進ユニットの目黒有輝主査は、こう述べる。
ICT化した現場システムへの侵入を一端許すと、どういった被害を招くのだろうか。「建機の不正操作には、特に注意する必要がある。現場での重大事故につながりかねない」と安藤ハザマの高馬副本部長は警鐘を鳴らす。
例えば、悪意のあるプログラムである「マルウエア」に感染したケースを考えてみる。タイヤローラーなどへの遠隔操作の制御装置が攻撃された場合、前進するよう指示を出したにもかかわらず、後退。さらに、緊急停止装置も機能不全に陥れば、接触や巻き込まれなどの死亡事故に至る恐れがある。