2019年10月1日の消費増税が目前に迫っている。IT対応でトラブル発生のリスクが高いのは、増税と同時に始まる「軽減税率制度」と「キャッシュレス・ポイント還元事業(正式名称はキャッシュレス・消費者還元事業)」の2つだ。今回は後者に関して、既に起こったトラブルを見ていく。
4月から準備、9月入って「ドタキャン」
「正直言ってあきれている。いくら何でもこの時期はないだろう」――。
こうこぼすのはコープさっぽろの米内徹常務理事管理本部長だ。2019年4月ごろから約5000万円を投じて、キャッシュレス・ポイント還元事業に参加するためのシステム改修を進め、2019年7月に事業者(加盟店)登録を申請した。
加盟店に登録されれば、一般消費者はクレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済で支払った金額の5%分がポイントで還元される。国は還元の原資を補助する取り決めだ。
コープさっぽろは登録承認を待っていたが、増税3週間前の2019年9月9日、同事業を管轄する経済産業省のキャッシュレス推進室長が米内常務理事を訪れ、登録拒否を伝えた。この瞬間、システムの改修部分は使いみちがなくなった。2019年9月18日にクレジット決済の最終的な接続テストを予定していたが、急きょキャンセルした。
コープさっぽろは「中小企業」か
札幌市に本部を置く生活協同組合であるコープさっぽろは、北海道内で食品を中心とした小売事業を営む。売上高は店舗と宅配を合わせて2820億円(2018年3月期)。道内に109店舗を展開し、スーパーとしてイオンやアークスと並んで道内3大勢力の一角を占める。
キャッシュレス・ポイント還元事業は「中小・零細企業」におけるキャッシュレス決済の普及を促進しつつ、消費増税による需要の落ち込みを緩和する狙いがある。世耕弘成経産相(当時)はコープさっぽろに拒否を伝えた翌日の9月10日の記者会見で「コープさっぽろが中小企業だと思っている方は、いないんじゃないでしょうか」と述べた。
ただ、国の補助事業はイメージではなく、ルールに基づいて運用される必要がある。キャッシュレス・ポイント還元事業の「加盟店登録要領」によれば、登録の対象になるのは小売業の場合、「資本金5000万円以下か従業員数50人以下の会社及び個人事業主」である。さらに会社形態以外の事業者については、「特別の法律によって設立された組合またはその連合会については、登録の対象とする」としている。
要領に照らせば、消費生活協同組合法に基づく組合であるコープさっぽろは登録対象となるはずだ。実際に、比較的事業規模が大きい生協ひろしま(広島市)やおかやまコープ(岡山市)などは加盟店に登録された。
生協以外でも、必ずしも「中小企業」とは思えない加盟店は少なくない。例えば食品スーパーのオギノ(甲府市)は山梨県を中心に47店舗を展開する。売上高744億円(2019年2月期)、従業員数約2300人という規模ながら、資本金は5000万円と少なく登録要件を満たす。オギノは経産省から加盟店登録を認められ、2019年10月1日から5%のポイント還元を始める。
同要領は課税所得でも加盟店の要件を定めている。具体的には「過去3年分の平均申告所得が15億円を超える事業者」は登録対象外だ。
コープさっぽろを含む生協は組合員の出資金を資本としており、利益を追求せずに組合員に多くを還元するのが基本的な運営方針だ。コープさっぽろの直近の平均課税所得は15億円を下回っているため、登録要件を満たす。米内常務理事はシステム改修に先立ち、経産省の監督下で事務局を務めるキャッシュレス推進協議会に直接問い合わせて「コープさっぽろは登録対象になる」という言質を取っていた。