IoT(Internet of Things)向けの通信方式として脚光を浴びるLPWA(Low Power Wide Area)。免許不要帯を使うSigfoxやLoRaが先行し、免許帯域を利用するNB-IoTがそれに続いたが、ここにきて第3勢力とも呼べる方式が注目を集めている。マルチホップや下り通信への対応、高効率化、高信頼性など各方式が“得意ワザ”を武器に普及を狙っている。
「LoRaやSigfoxを1度試したユーザーが我々のところに来るんですよ」。ソニーのLPWA(Low Power Wide Area)である「ELTRES(エルトレス)」の技術者はこう明かす。
ELTRESの強みは「有線並み」(ソニー)と豪語する通信品質。データの伝送速度は80ビット/秒とLoRaやSigfoxよりも低速だが、100km以上離れた遠距離や、高速道路を走る自動車や新幹線のような高速移動体でも安定した通信を提供できるとする。「農業やインフラ監視など、人が少ない地域の屋外で使いたいというユーザー」(ソニーネットワークコミュニケーションズ IoT事業部 営業部 担当部長の鈴木説男氏)が、確実につながるLPWAを求めてソニーのところに来るようだ。
このようにSigfoxやLoRa、NB-IoT (Narrow Band-IoT)といった既存方式では満足できないユーザーが新たなLPWAを求めている。それがELTRESのような「得意ワザ」を持つLPWAだ(図1)。
「ユーザーが望むLPWAを」
IoT(Internet of Things)に向けた通信として登場したLPWA。先行したのはSigfoxやLoRaだ。免許不要で利用できる920MHz帯を使い、低消費電力と広域な通信範囲を実現した。
その後、日本では大手携帯電話3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)が信頼性と全国規模の展開に優れるLPWAとしてNB-IoTのサービスを相次いで始めた1)。
これらの動きと前後して、「IoTブーム」が到来、従来はエレクトロニクス分野とは縁遠かった企業がIoTの実証実験(PoC:Proof of Concept)を盛んに実施するようになった。その一方で、「通信範囲を手軽に拡張したい」や「電波環境が厳しい都市部で使いたい」、「ハードウエアは国産品」、「国際標準規格に準拠した製品を採用したい」、「映像を送りたい」、「移動体でも安定した通信が欲しい」などさまざまな要求がユーザーから浮かび上がってきた。
いずれも、従来のLPWAでは十分に満たせなかったわけだ。このような要求に応えるべく登場したのが、有線並みの通信品質をウリにするELTRESのような従来のLPWAにはない特徴を持ったLPWAである。
1)松元、「セルラーLPWA発進、全国規模のIoTが可能に」、『日経エレクトロニクス』、2018年6月号、pp.53-60.