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 中国・上海市で開催された世界最大級の家電見本市「AWE(Appliance & Electronics World Expo)2024」(2024年3月14~17日)を取材していると、中国Haier Group(ハイアールグループ)のブースで不思議な展示を見つけた。同社の冷蔵庫「DELICACY」シリーズの新型モデル「Boguan 660」のチルド室に、2個の方位磁石が設置されていたのだ(図1)。

図1 ハイアールが展示した新型冷蔵庫のチルド室
図1 ハイアールが展示した新型冷蔵庫のチルド室
方位磁石が2個、アクリルのパネルに固定されている。(写真:日経クロステック)
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 筆者がドアをそっと閉じると、2個の方位磁石がぴっと向きを変えた(図2)。このチルド室の庫内は底面から上面に向かう磁界が発生しているようだ。その効果をブースの説明員に聞いた。「特に肉の鮮度保持に有効。磁力をかけると細胞内の水分子の動きを抑制できるので氷の結晶成長を抑えられる。これにより、細胞組織の破壊を防いで鮮度を保てる」(同社)という(図3)。

図2 チルド室を少し開けた様子
図2 チルド室を少し開けた様子
方位磁石が庫内に入ると磁針が上を向いた。(写真:日経クロステック)
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図3 磁力を使った鮮度保持技術の概要
図3 磁力を使った鮮度保持技術の概要
AWE2024開幕の前日にハイアールが開催したプライベートイベント「エコシステム大会」において、Haier Group傘下のHaier Smart Home副総裁兼R&DゼネラルマネージャーのHai Shu氏が磁力を使った鮮度保持技術の原理を説明した。(写真:日経クロステック)
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 鮮度保持の能力については、「生鮮食品の保存期間を約3倍延長できる。肉の場合は10日間の鮮度保持が可能」(同説明員)とする。同社が出願した特許には、「(磁力によって)食品の代謝を低下させて腐敗を遅らせる」という内容も記載されていた。仕掛けは至ってシンプル。チルド室の周囲に「磁場発生モジュール」を配置して庫内に均一の磁場を形成するというもの(図4)。前出の説明員によれば、磁気発生モジュールの正体は永久磁石だという。

図4 特許に掲載されている磁場発生モジュール
図4 特許に掲載されている磁場発生モジュール
特許CN202110920436.2「磁場生鮮保存容器および冷蔵庫」から引用。特許の全文を入手できなかったため番号が指すものは不明。(出所:ハイアール)
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 前職で食品用ショーケースの開発経験がある筆者は、正直、この技術に関して懐疑的である。磁力を活用した鮮度保持技術の存在は知っていた。ただ、筆者は前職時代に文献をあさったり簡易的な実験を行ってみたりしたが、その効果を確認できなかった。

 なので、説明員の話には納得できなかったのだが、ひとまず取材を進めると、ある発言に思わず耳を疑った。「発売後に十分な効果が認められたら、当社の他のブランドにもこの技術を展開する」という。まさか十分な効果を確認する前に市場投入したというのか。日本であれば、すぐにでも景品表示法に抵触しそうな案件である。