米欧中の研究開発競争が激しい「マテリアルズ・インフォマティクス(材料情報科学、MI)」。材料の物性値を集めたデータベースを使い、計算機で膨大な組み合わせを計算して新しい材料を探る試みだ。主に無機材料を対象とし、日本では自動車メーカーや材料メーカーなどに加えて、IT企業が取り組み始めた(関連記事)。
日本で材料情報科学にいち早く取り組み、相次いで成果を発表してきたトップ研究者と言えるのが、京都大学教授の田中功氏である。熾烈な競争に身を置く中、日本に対する強い危機感を語った。
現状が、とても歯がゆい。今や米グーグル(Google)が材料情報科学に興味を持ち、欧州や米国の研究機関と手掛けている。日本メーカーには、いまだに「計算機で材料発見なんて流行っているけれど、役に立たない」という人が多くいます。

このままでは、日本の敗色は濃厚です。ただ、詰んだわけではありません。材料技術では世界のトップメーカーが日本に多くあります。まだ巻き返せるはず。情報技術で日本は弱いけれども、材料に関する知見はいくらGoogleにもありません。
材料情報科学が世界で盛り上がるきっかけになったのが、米国が2011年に科学政策「Materials Genome Initiative(MGI)」を打ち出したことだ。2億5000万ドル(約270億円)以上の予算を投じて研究が加速した。欧州と中国が追随。日本は現在、先行する米国を追いかけている段階である。
米国は大量の無機材料の物性値をデータベース化して、公開しました。過去の論文で見いだされた材料に対して、第一原理計算に基づいて推定した物性値を“穴埋め”したイメージでしょうか。過去の研究で構造と一部の物性値が分かっているものの、他の値が不明な材料は多い。そんな“穴”をしらみつぶしに埋めたわけです。
今では、6万~7万種のデータベースになっているはず。ある特性の材料が欲しいとき、データベースから選ぶと見つけられます。画期的なことで、MIに段階があるとすれば、ここまでが第1段階と言えるでしょう。完全に米国が先行しました。
6万~7万種というのは、過去に見いだされたほぼ全ての無機材料と言えます。ただ4元素だけの組み合わせでも、10億通りはある。人類はまだ、多くの材料を知りません。