ホンダは、2モーター式ハイブリッドシステム「e:HEV」の次世代技術を公開した。2025年以降、順次量産車に導入していく。こだわったのはエンジンの存在感だ。
2021年より同社は、2040年までに販売する新車の全てを電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)に絞る「脱エンジン戦略」を掲げる。一方でここ数カ月、北米や欧州市場を中心に世界の自動車市場でEVの需要が鈍化するのと対照的に、ハイブリッド車(HEV)は販売台数を伸ばしている。
これまでエンジン開発に力を入れてきたホンダ。「CVCC」エンジンや「VTEC」といったエンジン技術を世に送り出したほか、自動車レースのF1に度々参戦してきた。同社を「エンジン屋」と表す自動車業界関係者・愛好家も少なくない。ホンダ四輪事業本部長の林克人氏によれば現在、「得意なエンジンの強みを捨ててどうするのか」といったエンジン開発の今後を懸念する声が寄せられているという。「エンジンを捨てるな」という意見は、別の技術者も「よく聞く」と話す。
同社はEV普及の本格化に備え、次世代EV技術を仕込みつつ、e:HEVの開発も進めてきた。今回、新技術を公開することは、エンジンを用いたHEV開発の手を止めていないことを社外に発信したい狙いがある。
現在、日系メーカーを中心にHEVの競争が激化している。「それぞれシステムに個性がある」(ホンダの技術者)。林氏は、次世代e:HEVにも「違い・個性・独自性による高いブランドポジションの創造が必要だ」と述べる。EV普及までのつなぎの技術として、次世代e:HEVを同社の内燃機関(ICE)技術の中核に育てていく考えである。
個性の1つとして、次世代e:HEVで磨いたのがエンジンの存在感だ。
e:HEVでは、基本的に街乗りなどの低・中速領域では、エンジンで発電し、その電力を使いモーターのみで駆動する。日産自動車のハイブリッドシステム「e-POWER」のようなシリーズ式と同様だ。一方、高速巡航時は、エンジンとタイヤをロックアップクラッチでつないで、エンジンで駆動する。
エンジンの存在感を強調するため次世代e:HEVでは、エンジンとモーターを制御して加速の高揚感を高める技術「Honda S+シフト」(以下、S+シフト)を搭載する。2025年発売予定の「プレリュード」から順次採用していく。先述の通り、e:HEVはほとんどの領域で、モーターで駆動し、エンジンは発電に使う。発電効率だけを求めるなら、エンジンの運転条件範囲を効率的な回転数やトルクの領域のみで使用する定点運転にしたい。ただ、エンジン回転数の上昇に合わせて車速が上がらないと違和感を覚える人が多い。
そこでS+シフトでは、全車速域で加減速に合わせてエンジン回転数やモータートルクなどを制御。DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を使ったICE車のようなシフト変速時の「段付き感」を演出する。モーター走行にも関わらず、「あたかもエンジンで駆動しているような感覚」(ホンダパワーユニット開発統括部パワーユニット開発一部中大型パワーユニット性能開発課チーフエンジニアの前田定治氏)を目指した。
S+シフトであえてエンジンの存在感を高めることで、「エンジンを捨てるな」の声に応えていく。
エンジンやPFを刷新
次世代e:HEVでは、排気量1.5Lのエンジンを刷新する。