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 プリント基板メーカーのイビデンが、小型の3相ブラシレスDCモーターの開発を進めている(図1)。同社にとって初めてのモーター製品で、得意とするプリント基板の技術をモーター用コイルに応用した。曲げられる基板を使ってコイルを形成しているのが特徴だ。同等トルクの競合製品と比べて最大40%の小型・軽量化を実現している。

図1 ecoTORQUE(エコトルク)
図1 ecoTORQUE(エコトルク)
イビデンが開発中の3相ブラシレスDCモーター。同社のプリント基板技術をコイル製造に応用した。同等トルクの競合製品と比べて最大40%の小型化と軽量化を実現した。(写真・画像:イビデン)
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 開発中の製品の名称は「ecoTORQUE(エコトルク)」。直径10mm、16mm、22mmの3種類をラインアップする。出力はそれぞれ3W、5W、90Wで、産業用ロボットやFA機器などの需要を見込む。

 同等トルクなら従来品よりも小型化できるので、狭い空間にも配置しやすい。逆に、従来品と同じ大きさなら高いトルクが得られるため、ロボットの可搬質量を高められるといった利点が期待できる。

プリント基板を丸めてコイルを製造

 イビデンによると、競合他社の3相ブラシレスDCモーターの占積率(コイル断面に占める導体の割合)が50%ほどなのに対し、開発製品は20ポイント増の同70%を実現している。占積率が高いモーターほど、体積当たりの出力を大きくできる。

 小型モーターでは、コイルの巻線として断面が丸形状の銅線(エナメル線)を使う場合が多い(図2)。モーターの組み立て工程でも自動化は進んでいるものの、「銅線を巻いてコイルを製造する工程では現在でも人手に頼る現場がある」(同社)。手作業によってコイルの巻き方にばらつきが生じると、占積率低下の原因になる。

図2 従来の巻線コイルの製造方法
図2 従来の巻線コイルの製造方法
銅線で造った平らなコイルを丸めて、円筒形のモーター用コイルを形成する。これがステーターとなる。銅線の配置にばらつきがあると、占積率の低下につながる。(出所:イビデンの資料を基に日経クロステックが作成)
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 ecoTORQUEの占積率向上に貢献したのは、イビデンが独自技術と位置付けるコイルの製造技術。断面が丸い銅線を使わず、曲げられる素材で構成したプリント基板の両面に角断面の銅の配線パターンを環状に形成して、コイルとして利用するのが特徴だ(図3)。「配線パターンはテンティング法と呼ぶエッチング手法で形成している」(同社)という。コイル1巻き分の配線を、プリント基板の表面と裏面に半分ずつ分割して配置し、貫通ビアによって表裏に分かれた配線を電気的に接続している。

図3 イビデンが開発したコイルの製造方法
図3 イビデンが開発したコイルの製造方法
プリント基板の表裏に銅配線パターンを形成して何重にも丸め、ステーターとなる円筒形のモーター用コイルにした。配線の断面が平角形状なのに加えて、従来の巻線コイルのような配線のばらつきを抑えて占積率を高めている。(出所:イビデンの資料を基に日経クロステックが作成)
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