小田急電鉄が提携先企業のサービスやクーポン情報などを提供するサイト「ONE(オーネ)」で、コンテンツの新規投稿や修正の作業スピードを3倍以上に高める成果を上げた。コンテンツの表示機能を持たないCMS(コンテンツ管理システム)「ヘッドレスCMS」を活用し、更新作業を自社内で完結できるようにしたことで、2週間ほどかかっていたのが数日で済むようになった。2022年に入ってからは経済産業省の実証事業のページを作成するなど活用範囲も広げている。
画面の自由度が高く、「SNSに投稿するように更新できる」
ヘッドレスCMSの特徴は、フロントエンドのユーザーにコンテンツを表示する機能(ビュー)と、バックエンドのコンテンツを管理するシステムを完全に分離し、コンテンツ管理に特化させたことだ。従来のCMSと異なり「ヘッド」に相当するビューの機能を持たないので「ヘッドレス」と呼ばれる。CMSとは別にビューを自前で用意し、ヘッドレスCMSが提供するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)と連係させてコンテンツを表示する。
具体的には、タイトルや本文、画像やロゴなどサイトのレイアウトと、投稿用の画面をあらかじめ用意し、更新したい内容を投稿用の画面に入力すればサイトに反映できる。「SNSに投稿するような簡単な操作でコンテンツの更新や修正ができる」(小田急電鉄経営戦略部ICTプラットフォームPJの和田正輝ビジネスプランニング担当)。ビューを作り込む手間がかかる代わりに、画面レイアウトの自由度は一般的な「ヘッドあり」のCMSよりも高い。
小田急電鉄ではこのヘッドレスCMSを、2019年12月に立ち上げた「地域密着型プラットフォーム」であるONEのコンテンツ向けに採用した。ONEは現在65社ほどの企業と提携しており、管理栄養士や調理師など食の専門家による出張料理の「SHAREDINE(シェアダイン)」やベビーシッターマッチングの「KIDSNAシッター」、傘シェアリングの「アイカサ」といったサービスの内容やクーポンなどを配信している。ユーザー数は2022年4月末時点で約10万人だ。
サービス内容やクーポンといった情報は随時更新する必要があり、新たな提携先も増えているため「更新作業は平均で月間20~30件ある」(和田氏)。従来はこれらの更新作業に約2週間もの時間を要していた。
その原因は、もともとの運用体制にあった。まず小田急電鉄が提携先と掲載内容を決め、小田急グループのマーケティング専門会社である小田急エージェンシー経由に画像やテキスト、クーポンコードなどを共有する。小田急エージェンシーが制作会社と作ったサイトを小田急電鉄が校正して公開時期を調整し、公開するという手順を踏んでいた。「関係者や工数が多く、1つの更新や修正にも大きなコストがかかっていた」(和田氏)
そこでONEのうち頻繁に更新する部分についてはCMSを活用し、小田急電鉄が自らコンテンツ管理して効率化を図ることにした。複数のCMSを検討し、最終的にSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)型のヘッドレスCMSの「microCMS」を採用した。ONE上のコンテンツ管理をICTプラットフォームPJ内の3人で完結し、確認作業を含めて数日で更新できるようになった。
ツール選定ではセキュリティー面も考慮
CMSの選定では個人のブログから大規模なWebサイトまで広く使われているオープンソース・ソフトウエア(OSS)の「WordPress」を採用し、自前で運用することも検討したが、見送った。「ユーザーの個人情報を扱うサイトの性格上、セキュリティー面も選定では考慮した」(和田氏)という。