松井を送るニューヨークタイムズの読者たち

松井秀喜がヤンキースを離れるという一報がニューヨークタイムズ電子版に掲載されてから、短時間に多くの読者メッセージがその記事のコメント欄に寄せられている。松井に対し、どれも驚くほど好意的で、それどころか、その多くが思い入れたっぷりに感謝と惜別の念を表明するものになっている。凡打の山を築き、「ゴロの王様」と揶揄された一年目のレギュラーシーズンを思い起こすと信じられないハッピーエンドだ。

近年の故障がちで、本来の力からすればまだ本領発揮とまではいっていなかったにもかかわらず、これだけニューヨークのファンの支持を集めたのは、今回のワールドシリーズMVP受賞に象徴される、大事な場面で成績を残したクラッチプレイヤーとのしての実績と、控えめで温厚な人柄が米国人にも好かれたということだろう。コメント欄のなかに、ティノ・マルティネス、ポール・オニール、バーニー・ウィリアムスらがいなくなってから、松井がそれらの選手の欠乏感を埋める存在だったというあるファンの書き込みがあるが、それら派手さでは超一流のスーパースターに一歩を譲るものの、堅実で、頼りがいがあり、大人の風格がある実力選手がニューヨークでは好まれる。松井がその系譜に名を連ねたということなのだと思う。これはすごいことだ。

それにしても、このコメント欄のメッセージの群れが醸し出す気持ちのよさはなんと表現すればよいだろう。たまに評論家風の状況分析は混じっているが、否定的なコメントはごくわずか。松井、ありがとう、LAでがんばれ、というメッセージが次から次へと書き込まれ、信じられないほど温かいトーンが全体を覆っている。こういう電脳文化は日本には生まれなかった。電脳空間はリアルの空間と地続きで、リアルの空気を直裁に反映している。そう考えると萎えるものがあるが、そこでシニカルな気分に陥ってしまったらと何も生まれないともあらためて思う。


http://bats.blogs.nytimes.com/2009/12/14/matsui-agrees-with-the-angels/