音楽が好きだし、映画も好きなので、音楽をテーマにした映画には食指をそそられます。新聞の映画評で『パリのちいさなオーケストラ』が好評なので、山ノ神を誘って観にいってきました。公式サイトから紹介文とあらすじを転記します。 本作は現在も精力的に活躍の場を広げているディヴェルティメント・オーケストラを立ち上げた一人の少女と仲間たちの物語。指揮者を目指すアルジェリア系のザイア・ジウアニが、パリの音楽院への編入をきっかけに、巨匠セルジュ・チェリビダッケに指導を受け、時に厳しく時に温かく対話を重ね、音楽を学ぶ。そして、貧富の格差なく誰もが楽しめるように、パリ市内の上流家庭出身の生徒たちと移民の多いパリ近郊の地元の友人をまとめ、垣根を超えたオーケストラを結成した。この実話を映画化したのは『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』の監督マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール。主要キャスト以外の配役は現役音楽家を抜擢。数々の美しい有名クラシック音楽が、実際に演奏しながら撮影され、ライブ感溢れ心躍る感動作が完成した。 アップリンク吉祥寺に行ったのですが、けっこう席がうまっていました。かなり前評判は高いようですね。 映画は、ザイアに対する、裕福な白人男性学生による陰湿ないやがらせと侮蔑から始まります。彼女はアルジェリアからの移民で貧しいということもあり、彼らから「貧しい」「移民」「女性」であることを理由に差別的な眼差しを向けられます。そして彼女が指揮者に選ばれたことにも反発し、練習中にもさまざまな嫌がらせやからかいが行われます。手を抜く、指示に従わない、半畳を入れる、練習をさぼる、などなど。しかし「音楽は人生だ」という強い信念をもつ彼女の心は折れません。地下鉄の轟音や、母の使う包丁のリズミカルな音などにも音楽を聴きとる場面によく描かれていました。 そして巨匠チェリビダッケとの劇的な出会い。公開レッスンで指名した男子学生がいきなりオーケストラに対して指揮棒を振り降ろした瞬間に、演奏をやめさせて舞台から降りるよう命令します。「まずは挨拶だ、奏者に対する敬意を忘れるな」との一喝から、音楽に対して真摯に向き合うチェリビダッケの姿勢がビシビシと伝わってきました。代わりに自ら進んで舞台に上がったザイアの情熱的な指揮にチェリビダッケは心動かされ、彼女の指導をすることになります。 以後、彼の厳しい指導に加えて、ブザンソン国際若手指揮者コンクールへのエントリー、自らのオーケストラの設立など、生活のすべてを音楽に捧げ、めきめきと腕を上げていくザイア。その姿勢に共感して、昔からの仲間に加えてこれまで侮蔑していた学生たちの何人かもこのオケに馳せ参じてきます。この間の指揮の上達ぶりと音楽にかける情熱を、ウーヤラ・アマムラが見事に演じていました。 この間に、さまざまなエピソードが挿入されて、映画を豊かなものにしていきます。楽器に興味をひかれるダウン症の少女イザベルのために、優しくチェロを教える双子の妹フェットゥマ。刑務所を慰問した際に、収監されている父を前に切々とクラリネットを独走するディラン。その曲目がフォーレの「夢のあとに」ですから、泣かせますね。音楽をこよなく愛し、娘たちのために手作りの防音室をつくった父親もいい味でした。 やがて指揮者としての壁にぶつかり苦悩するザイア。「孤独だと感じるうちは奏者と離れている。皆と一体だと感じられたら奇跡が起こるはずだ」と励ますチェリビダッケ。しかしコンクール予選を通過できなかったザイアは落ち込み、ベッドに伏せってしまいます。すると外から… はい、後は観てのお楽しみ。私の涙腺はこのラスト・シーンで決壊寸前となりました。 なお購入したパンフレットによると、実際に楽器を演奏できる方々を配役したとのことです。彼ら/彼女らが奏でる素晴らしい音楽が、映画全編を飾るのも見どころ。ラヴェルの「ボレロ」、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」、ビゼーの「アルルの女」、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」、ベートーヴェンの交響曲第7番、サン=サーンスの「バッカナール」、ハイドンの「ディベルティメント」などで楽しませてくれました。ちなみにザイアが立ち上げたオーケストラの名前がディベルティメント管弦楽団、つまり"喜び"管弦楽団です。 いつも思うのですが、オーケストラとは不思議かつ素晴らしい存在です。音色も奏法も形状も異なる楽器を持った個性豊かな奏者たちが集まり、心合わせて美しい音楽を紡ぎ出す。人間の営為として理想的なかたちだと思います。憎悪や対立や暴力にあふれる今の世界、オーケストラのように調和できないものでしょうか。ザイアのこの言葉に、世界の人びとは耳を傾けてほしいと思います。 世界が変わるかは知らない。でも演奏や音楽の力で、人は変わると思います。 #
by sabasaba13
| 2024-12-23 09:16
| 映画
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アップリンク吉祥寺で映画『アナウンサーたちの戦争』を観てきました。公式サイトからあらすじと紹介文を転記します。 太平洋戦争では、日本軍の戦いをもう一つの戦いが支えていた。ラジオ放送による「電波戦」。ナチスのプロパガンダ戦に倣い「声の力」で戦意高揚・国威発揚を図り、偽情報で敵を混乱させた。そしてそれを行ったのは日本放送協会とそのアナウンサーたち。戦時中の彼らの活動を、事実を基に映像化して放送と戦争の知られざる関わりを描く。 日本放送協会(現NHK)が戦争に協力した/協力させれた事実はある程度知っていましたが、この映画を観てずぶずぶに戦争協力していたことを知り驚きました。例えば占領地に設置した放送局は、現地住民を日本軍に協力させるためのプロパガンダ放送をしていただけでなく、日本軍の動きに関する誤情報を流して敵国軍を攪乱しようとしていたのですね。 そしてメディアの戦争協力に対するアナウンサーたちの態度にあらわれた違いについても、映画はきちんと描いていました。積極的かつ自発的に協力する者、事なかれ主義を貫く者、内心では反対しつつもやむを得ず協力する者、そして可能な範囲で協力する者。主人公の和田信賢アナ(森田剛)のモットーは「虫めがねで調べて、望遠鏡でしゃべる」、取材対象について徹底的に調べ、聴く者の心に届くように話すということでしょう。当初は心に届く言葉を駆使して戦意高揚に協力していた和田ですが、よく調べているうちにこの戦争について疑問をもちはじめます。神宮外苑球場での学徒出陣壮行会の実況を任された和田でしたが、戦場に送られる早稲田大学野球部員を取材しているうちにその疑問は決定的となります。一番心に残った場面でした。はじめのうちは「御国のため」「陛下のため」と勇ましい決意を述べていた彼らがやがて苦渋の表情で「死にたくない」「生きたい」「野球がしたい」と絞り出すような声で告白していきます。雨の当日、衝撃を受けた和田は実況を交代してもらい、そぼ降る驟雨のなかでひとり嗚咽をもらします。このあたりの森田剛の演技は見事でした。 権力が人びとをある方向に誘導していく時にいかにメディアを利用するのか、そしてその歯車が動き出すともうメディアは抗うことができなくなるのか、よくわかる映画でした。その歯車が動き出す前に、メディアは本来の役割に徹してそれを止めなければならないか、あらためて痛感しました。そう、権力を監視することと、弱者・少数者・被害の声を人びとに届けることです。そしてそうした硬骨のメディアと連帯し支えるのは私たちです。しっかりとメディアを監視しましょう。 ところでNHKのみなさん、この映画で描かれたような戦争協力に対する真摯な反省はされていますか。どうも政権与党に尻尾を振る幇間メディアに堕して、覆轍を踏もうとしているように思えるのですが。そんな茶坊主メディアに受信料を払って、戦争遂行の片棒を担ぐなんて真っ平御免です。
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by sabasaba13
| 2024-12-22 08:03
| 映画
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途中に鐘撞堂(時鐘楼)がありました。 島原市のホームページから、その由来を引用します。 延宝3年(1675年)9月、初代島原藩主・松平忠房が「人々に時刻を知らせ、守らせることは政治の中でも大切なことである。」と、鐘楼を建立しました。 へえー、金属供出で国家に奪われたのか。そして弁償も謝罪もせずに放置したままなのですね、やりたい放題の泥棒国家です、ほんとにこの国は。なお戦時中に、♪夕焼け小焼けで陽が暮れて山のお寺の鐘鳴らない♪という替え歌が唄われたと聞いたことがあります。 北村西望氏は、長崎平和祈念像をつくった彫刻家ですね。
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by sabasaba13
| 2024-12-21 08:35
| 九州
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まずは「ウィキペディア」から、島原の歴史について引用します。 江戸時代初期の1618年(元和4年)から7年の歳月をかけ松倉重政が島原城を築城したが、石高の規模の見合わない大城であったため松倉家の財政は破綻し、松倉家はこれを補うため日本史上で類例がない九公一民の重税をかけ、その減免を訴えた農民を一揆勢であると偽称して次々と拷問にかけ殺した。さらにはキリシタン弾圧などの悪政を続け、1637年(寛永14年)に島原の乱が起こる。これにより旧来の住民はほとんど全滅し、代わって藩を統治した高力忠房の移住政策により復興していくことになる。学者の説では現代の島原市民はその大半が農民による大規模な島原の乱以降の移住者であり、江戸期以前に伝統的に島原で居住してきた人間の子孫はほぼ存在しないとされるが根拠が無くて歴史的にその事実が確認できない。しかし忠房の後を継いだ隆長は藩の体制確立に躍起になったためか失政が多く、幕府より咎を受け寛文8年(1668年)に改易となった。 なお島原は日本有数の湧水の街で、一日に22万㌧もの湧水量をほこることも申し添えておきましょう。
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by sabasaba13
| 2024-12-20 15:15
| 九州
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待ち合わせのためにしばらく列車は駅で停車したのでホームに出て紫雲をくゆらしました。眼前はたわわに実った稲穂、風が強いのでまるで波頭のように波打っていました。そこに飛来してきた一羽の白鷺。絵になるなあ、動画で撮っておきました。 それにしてもなぜ鯉? 島原は街中に水路がはりめぐらされており、鯉が放流されているからかな。なお『長崎新聞』によると、2019年12月に退職されたそうです。御役目、ご苦労様でした。 長崎県島原市新町2丁目の観光名所「鯉の泳ぐまち」に市が整備した観光交流センター「清流亭」で16日、ニシキゴイ18匹の放流があった。このうちの1匹は、島原鉄道島原駅で"鯉駅長"を務めた雌の黄色いコイ「さっちゃん」。同社は「3年間ありがとう。今後は鯉の泳ぐまちの一員として、コイとしての幸せをつかんで」とコメントした。 その由来は?と気になってウィキペディアで調べてみたところ、長崎県島原市出身の作家宮崎康平の妻が家出し、一人で子育てをしていたころ(1950年ごろ)に歌って聞かせていた子守唄をベースにして彼が作詞・作曲した歌謡曲だそうです。しかし、後に山梨に古くから伝わる民謡「甲州縁故節」を原曲としていることがわかったとのこと。♪早よ寝ろ泣かんでオロロンバイ♪
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by sabasaba13
| 2024-12-18 08:24
| 九州
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自己紹介
東京在住。旅行と本と音楽とテニスと古い学校と灯台と近代化遺産と棚田と鯖と猫と火の見櫓と巨木を愛す。俳号は邪想庵。
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