鬼畜のような国

 フォルダの片隅で上梓し忘れた記事を見つけました。今でも通用する重要な内容だと思うので、埃をはたいて掲載します。ご海容ください。

 『週刊金曜日』(№1393 22.9.16/23)の記事を読んでいて目が点になりました。いま、日本において高齢者がどういう状況にあるのか、高齢者の方も、やがて高齢者になる方も、ぜひ読んでほしいと思います。なお図表は割愛します。

職場で安全が脅かされる高齢者 井上伸

 【図表1】は労働災害によって死亡した労働者に占める60歳以上の割合を見たもの。1992年の19・7%から2021年の42・4%へ2倍以上となり初めて4割を超えた高齢者の労災死亡は過去最悪の事態だ。実数は368人で60歳以上の労働者が毎日1人命を落としていることになる。就業者数(総務省「労働力調査」)に占める60歳以上の割合を見ると、1992年の12・3%(実数は793万人)から2021年の21・4%(実数は1438万人)へ1・7倍になり、就業者の5人に1人が60歳以上である。この就業者に占める割合より労災死亡の割合が2倍近く高いことが、高齢者の労災死亡のリスクの高さを示している。
 【図表2】は60代の労働者に「現在仕事をしている理由」を聞いたもの。「経済上の理由」が81・7%(19年調査)と突出して多く、14年調査からさらに5・7ポイント増え、高齢者が生活のために働かざるを得ない状況が広がっている。
 【図表3】はOECD(経済協力開発機構)加盟国において平均賃金に対する公的年金給付額の比率を見たもの。日本の年金給付額はわずか38・7%でイタリアの半分以下、OECD加盟国38カ国平均の6割しかない。
 【図表4】は65歳以上の対する就業者の割合を国際比較したもの。日本は25・3%と65歳以上の4人に1人が働いている。これはOECD加盟38カ国平均の2倍以上である。これらの統計から日本の高齢者は低年金のため死ぬまで働かざるを得ず、労災死亡のリスクにさらされているといえる。
 最近、国政選挙のたびごとに「シルバー民主主義」などと揶揄され、有権者全体のなかで高い割合を占める高齢者向けの施策が優先される政治がまかり通っているかのような言説が流布される。しかし日本の高齢者の実態はどの世代よりも貧困率が高く(18年のOECD統計で65歳以上の貧困率は20%に対し18~65歳の貧困率は13%)、国際比較においても日本の65歳以上の貧困率20%はG7(主要7カ国)で2番目の高さで高齢者優遇とはほど遠い水準だ。自己責任で高齢者の貧困を放置する高齢者冷遇が日本社会のリアルである。(p.26)

 年金給付額があまりに低いので死ぬまで働かざるを得ず、対策が甘いためか労働災害にあう危険性が高い高齢者。これは「冷遇」どころではなく「虐待」です。高齢者の一人として強い憤りを覚えます。
 さらに同誌同号で、藤田和恵氏が、高齢者の働く現場についてのルポを報告しています。

 東京都内で一人暮らしをする大谷絢子さん(仮名、68歳)も低年金ゆえに、定年退職後の一時期はダブルワークをしていた。長年、飲食店のアルバイトとして働いてきた。フルタイム勤務で、新入社員の教育係を任されたこともあったが、やはりアルバイトという理由で厚生年金に入ることができなかった。周囲から「国民年金はいずれ破綻する。入っても無駄」といわれ、民間の個人年金保険に加入したという。50代で転職したものの、今度は契約社員という理由で退職金がゼロだった。
 退職したときはコロナ禍の真っただ中。家賃を払うためにすぐにも働く必要があったが、仕事探しは難航した。何とかありついたのはチラシ配りの仕事。ただし契約は雇用ではなく、業務委託である。労働者ではないので、万が一けがをしても労災は適用されない。
 「戸建て住宅の外階段を2、3段踏み外すなんてことも、(接近してくる)車に気が付かなかったなんてこともしょっちゅう。いつ大けがをしてもおかしくない毎日でした」
 そうでなくてもチラシ配りの仕事はハードだ。まずは「チラシお断り」の家をすべて頭に叩き込まなければならない。A4版のチラシの束は重さ4キロを超え、携帯の歩数計アプリが3万5000歩に上った日もあった。にもかかわらず、働き始めたころの報酬は時給に換算するとたったの400円だったという。
 数カ月後に清掃のアルバイトを見つけ、1年ほどダブルワークをした後、チラシ配りの仕事をやめた。とはいえ清掃の仕事も楽ではない。高層マンションを含め計3棟の共用部分と中庭の掃除を3人でこなさなくてはならない。経口補水液は欠かせないという。
 現在の収入は月15万円ほど。ただ個人年金が受給できるのは70代なかばまでだという。今一番不安なのは、将来家賃を払えなくなるのではということだ。現役時代に散々"非正規差別"を受けてきた大谷さんは「(国には)せめて家賃補助の制度をつくってほしい」と訴える。(p.30)

 まるでチャールズ・ディケンズの小説を読んでいるようです。いまは本当に21世紀なのでしょうか、頬をつねりたくなりました。非正規雇用、低賃金、低年金、適用されない労災。労働者を追い込み苦しめている諸制度が特に苛烈なダメージを与えるのが、社会的弱者である高齢者なのですね。よくわかりました。
 そして『東京新聞』(2022.9.18)は、高齢者に対するシルバー人材センターの安全管理の不備について報じています。

 シルバー人材センターから紹介された草刈り中に片目を失明した高齢男性が安全管理上の不備があるとして提訴、今年1月にセンターが和解金を支払っていたことが分かった。センターは会員と雇用関係がないため安全配慮義務がなく、提訴自体が異例。会員の高齢化で全国的に事故率が上がり重篤化の傾向もみられる中、長年あいまいにしてきた安全確保策の強化が課題に浮上している。(池尾伸一)

 失明したのは元タイル職人の野口光芳さん(80)。2016年10月、74歳の時にセンターから紹介を受け、大阪府の私大構内を刈り払い機で作業した。現場は30度の急斜面。湿気で保護眼鏡が曇って足元が見えず、滑落の危険から外して作業していると、泥が左目に入った。数日すると激痛を感じ、病院でカビ菌が入ったと判明。手術を受けたが視力は失われた。
 センターの傷害保険で支払われたのは治療費程度で後遺症の補償もない。「危険な現場を紹介すべきでなかった」と大阪地裁にセンターを訴えたが、センターは「安全対策は本人の責任」と主張していた。和解を受け、自らも建設会社の安全衛生責任者を務める長男(49)は「急斜面の草刈りはプロの仕事。高齢者に任せきりなんてあまりにずさん。裁判しなかったら泣き寝入りだった」と振り返る。
 労働問題に詳しい龍谷大の脇田滋名誉教授は「法律上は安全配慮義務がないセンターが和解金を支払い、会員の安全確保の強化を確約した意味は重い。政府は高齢者を守る体制の整備を急ぐべきだ」と指摘した。
 センターは高齢者の生きがい増進を目的に「軽易な仕事」などのあっせんが建前だ。しかし会員1000人中の就業中事故は11年度の4.9件が21年度は5.7件と増加傾向。死亡と6カ月以上の入院を合わせた重篤事故も21年度までの5年間で143件(死亡94件)起き、その前の5年の127件(同89件)を上回る。埼玉県上里町では昨年9月、73歳の男性が、自走式草刈り機とともに斜面を転げ落ち、刃に巻き込まれ死亡した。
 会員の平均年齢は07年度まで60代だったが、21年度には74歳に上昇し、全国シルバー人材センター事業協会は「高齢化が事故発生率上昇の原因」と説明。労働安全衛生総合研究所の高木元也特任研究員は「高齢化で事故が起きやすくなる中、安全対策が追いついていない」とみる。
 企業の場合、安全管理責任者の配備や安全教育徹底など労働者保護が義務付けられる。センター会員は個人事業主のため安全対策も働き手自身の責任で行う原則で、構造的に弱さがある。高木氏は「会員任せでは限界がある。センターは安全教育や保護具着用の徹底が必要だ」と強調した。

 先述の記事にあった「労働災害によって死亡した労働者に占める60歳以上の割合が42・4%と4割を超え、過去最悪の事態」という指摘を想起すると、かなりの職場で安全管理に不備がありそうですね。

 そして朝日新聞デジタル(2022.9.18)は、働く高齢者18年連続して増え、65~69歳は「2人に1人」が働いていると報じてします。

 65歳以上の高齢者の人口は前年より6万人増えて3627万人、総人口に占める割合(高齢化率)は29・1%となり、それぞれ過去最高を更新した。高齢人口に占める就業者の割合は25・1%、65~69歳に限ると、割合は50・3%となり、初めて5割を超えた。政府は、人口減による人手不足対策として、高齢者の就労を後押ししている。
 19日の「敬老の日」に合わせて、総務省が推計した。高齢者の女性は2053万人(女性人口の32・0%)、男性は1574万人(男性人口の26・0%)。年齢別では75歳以上が1937万人で総人口の15・5%を占める。
 理由について同省は「団塊の世代(1947~49年生まれ)が22年に75歳を迎え始めたことが考えられる」としている。80歳以上は1235万人で前年より41万人増えた。

 高齢化率は世界200カ国・地域(人口10万人以上)のうち最高で、2位イタリア(24・1%)、3位フィンランド(23・3%)を大きく上回る。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、第2次ベビーブーム世代が65歳以上になる2040年には、総人口の35・3%が高齢者になると見込まれている。

 労働力調査によると、昨年の高齢者の就業者数は過去最多の909万人。18年連続の増加となった。

 「政府は、人口減による人手不足対策として、高齢者の就労を後押ししている」というコメントが累ヶ淵に投げ込まれた小石のように不気味に響きます。低年金のために働かざるを得ない高齢者を、危険な労働環境のもとで低賃金で酷使し死んだら自己責任、と聞こえます。ん? もしかすると自民党・公明党政権は、高齢者を死ぬまで働かせるために、年金給付額を低廉に抑えているのではないでしょうか。だとしたら鬼畜のような国です。「ソイレント・グリーン」の世界まであと一歩ですね。
 高齢者を、女性を、外国人を、使い捨ての安い労働力として追い詰め使い潰す、♪これが日本だ、私の国だ♪ 「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」(教育基本法第2条)、そりゃ無理筋でしょう。ま、人間を人間として扱わないのが、近代日本の伝統と文化であることは認めますが。

 もう一回言っておけばよかったと後悔しないように、何千回も言われ尽くしたようなことでももう一度言いましょう。自民党と公明党に政権を委ねていたら命がいくつあっても足りません。一刻でも早く政権の座から引きずりおろし、ほんの少しでもマシな政党を政権につけましょう。

by sabasaba13 | 2024-11-04 08:06 | 鶏肋 | Comments(0)
<< ノルウェイ国王ハーラル5世のスピーチ 伊勢志摩編(2):伊勢神宮(1... >>