国葬???????

 岸田内閣は、故安倍晋三氏を国葬にすることを閣議決定しました。こんな大事なことを、国会で論議もせず、国民の意見も聞かず、閣議で決めてしまうわけですか。「聞く力」はどこに消えたのでしょうか。ま、憲法すら閣議で変えてしまうという荒技を見せてくれた自民党ですから、これくらいは平気の平左なのでしょう。
 しかし私は国葬には反対です。「安倍政権の遺産1」「安倍政権の遺産2」で紹介しましたが、国葬に値する功績や正の遺産が安倍政権にあったとはとても思えません。もしあったのなら教えていただきたいのですが、岸田文雄首相が漠然とした物言いですが示してくれました。『しんぶん 赤旗』(22.7.20)の社説から引用します。

「卓越したリーダーシップと実行力」「東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開等の大きな実績をさまざまな分野で残された」

 なるほど。一つ一つ検討してみましょう。まずは「東日本大震災からの復興」です。東京新聞(2022.7.8)から引用します。

福島の被災者支援 堂々と語れるの? (中沢佳子)
 「国の『復興』はハコモノ造りが中心。見せ掛けだ」とは、事故後に福島県南相馬市から横浜市に避難した村田弘さん(79)。被災者にとって、復興には程遠いと訴える。「何の落ち度もなく故郷を追われた人に対し、県や国は住宅支援を打ち切り、追い出しにかかった。避難者の家や仕事の確保は国の責務だ。なのに、真逆のことをしている」
 被災者を巡る問題は数え切れない。除染が不十分なままの避難指示解除。国の機関が間に入って賠償額を決める裁判外紛争解決手続き(ADR)で争っても、東電は和解に応じない。
 事故の翌年に成立した「子ども・被災者支援法」は「避難する権利」を理念に掲げ、被災者が居住、避難、帰還のどれを選んでも国が適切な生活支援をすると定めた。しかし、実行に必要な基本方針は、安倍晋三政権下で骨抜きになった。(略)
 一連の被災者軽視は、安倍元首相が「原発はアンダーコントロール(制御下だ)」と言いのけ、「復興五輪」と銘打つ東京五輪招致を決めたのが元凶だと村田さんはみる。「あの時から『原発事故はもう終わった』とばかりに、被害を見えなくする政策が進んだ」
元福島大教授で地方自治総合研究所の今井照主任研究員も「国の『復興』は被災者の心情とずれている。被害を小さく見せようというベクトルが働いている」とみる。五輪開催が決まり、震災被害から立ち直ったかのようなうわべの「空間の復興」を優先する流れになったという。「復興でまず進めることは、被災者の生活再建。次に被害前の環境の回復。しかし国は五輪を控えて、空間の復興を優先した」
 被災者支援に携わる国際環境NGO「FoE Japan」の満田夏花事務局長は「住宅支援を切られ、家賃負担が増した。母子避難で経済的に苦しい。コロナ禍で貧困状態に拍車がかかった。そんな声が届く。多くの被災者が国から見捨てられたという思いを抱いているのに、国は実態把握も、どんなニーズがあるかも調べていない」と指摘。それゆえ、こうくぎを刺す。「日本の震災復興は形骸化している。世界に胸を張って語れるものじゃない」

 はい、0-15。次に「日本経済の再生」です。『週刊金曜日』(№1384 22.7.8)から引用します。

日本の産業を恥ずかしいレベルにまで落とした自民と経産省 産業政策の欠陥を古賀茂明さんに聞く
-そのアベノミクスの3本の矢は、①金融緩和、②財政出動、③成長戦略(経済、産業政策)でした。どうみていますか。
 1990年のバブル経済崩壊から約30年間、日本の産業政策は一貫して失敗してきました。主なプレーヤーは経済産業省と自民党ですが、経済にとどめを刺したのがアベノミクスです。
-具体的に教えてください。
 産業政策の基本は生産性を上げることで給与上昇につなげることですが、むしろ生産性を上げない方向の政策ばかりやってきたのです。
-どういうことでしょうか。
 周辺諸国の追い上げを受け、本来は商品開発やイノベーションを企業に頑張らせるべきでした。ところが力がなくなっていた企業は単純なコスト削減に走ったのです。賃金もコストだと考え、自民党は賃金を下げる政策を一貫して取ってきました。
 その一つが派遣請負労働者の拡大です。さらに「留学生30万人計画」。珍しく達成しましたが、留学生の内訳は中国からの語学留学生が中心で、のちにベトナム人も加わります。同時に留学生の資格外活動(アルバイト)時間を緩和し、学業よりもアルバイトを優先する方向に誘導しました。
 もう一つは外国人技能実習制度です。「人材育成」との美しい建前に反し、実態は最低賃金すら払わず、こき使う奴隷制と批判されています。
 低賃金労働者の導入は一時的なカンフル剤にはなりましたが、本来の稼ぐ力は取り戻せません。負けるのを先延ばしにしているだけなので、また追いつかれるわけです。経団連に泣きつかれて出した究極がアベノミクスの超円安政策だったのです。
-驚くべき円安水準です。
 円の最高値は、民主党連立政権当時の2011年10月31日。1ドル75・32円でしたが、いま(22年6月)は135円前後になっています。
かりに時給が800円だとすると、最高値時代には10ドル以上もらっていた労働者が、1ドル120円になると6・67ドルしかもらえない。米国人から見ると、かわいそうだね、となります。時給1000円になったとしても、1ドル135円なら約7・4ドルにしかすぎません。国際的な水準自体を大幅に下げたことになります。
 一方、輸出産業からすれば利益が何倍にもなりました。「史上最高の利益」などとはしゃぐ企業が多いのですが、なにもしなくても儲かるため、無能な経営者が居残っているのです。(p.23)

 はい、0-30。『長期腐敗体制』(白井聡 角川新書)からも引用しましょう。

 そして安倍政権が終わってから二年半ほど経った今、日本経済にはスタグフレーションの足音がヒタヒタと迫っています。それは、世界的な資源高、物価上昇の影響を受けたものですが、もう一つの要因は円安です。購買力で見た場合、円安と長期のデフレによって、日本円の購買力は1970年代のそれに低落したという報道が話題になっています。そこへもってきてウクライナ紛争ですから、ますます物価は上がりそうです。
 そうした中で、アベノミクスは実現したことの要点は何であったのかが表面化しているのでしょう。要するにそれは、為替操作、円安誘導だったわけです。そして財界はそれを歓迎した。円安=日本経済の繁栄という思考停止した図式が刷り込まれているからです。確かに、完成品を輸出している大企業は円安の恩恵を被るでしょう。他方、そうした大企業の下請け企業は、原料を輸入せねばならず、円安に苦しみます。
 円安によって、中小企業の犠牲のもとに大企業を優遇し、さらに日本の労働者の賃金を実質的に下げ、「成長のエンジン」と称していたのがアベノミクスだった。賃金の引き下げは、最も安易な利潤の創出方法です。安倍氏に対して最大限に同情的に見るならば、「円安誘導で余裕を与えてあげるから、その間にイノベーションを考えろ」ということだったのかもしれませんが、日本の財界にそれを実行する能力はなかった。
 つまりは、華々しいスローガンを掲げて、いかにも新しいことを導入するような素振りをしながら、実体は、総じて既得権益層(大企業と、事なかれ主義で出世した無能な経営者)を優遇していたにすぎなかった。明治に形づくられた天皇制が、国内の貧困・格差問題によって揺るがされ変革を求められたけれども、地主と財閥の権益を削れずにそのままファシズム体制に変質していった戦前戦中の昭和期に似ています。挙句の果てに、統計偽装、統計改竄で成長を捏造ですから、いよいよ大本営発表の時代に突入したようです。(p.142~3)

 はい、0-40。次に「日米関係を基軸とした外交の展開」です。こちらも『長期腐敗体制』(白井聡 角川新書)からの引用です。

 では朝鮮戦争終結の可能性が語られ始めたとき、日本はどう振る舞ったのでしょうか。驚くべきものだったなと思います。まず、トランプ大統領と金正恩総書記が罵り合っている状況の下、世界中が物騒なことを言っているぞ。これはまずい」と危惧しました。世界各国が「冷静になってほしい」というメッセージを発していたときに、日本の安倍首相だけが「北朝鮮には異次元の圧力が必要」と言いました。「北朝鮮と国交のある国は、さらなる圧力を掛けるために断交しなさい」と。あの状況で「さらなる圧力を」という言葉は何を意味したでしょうか。当時、金正恩斬首作戦など、アメリカの軍事行動の可能性も具体的に語られていました。ですからそれは、朝鮮戦争が再開してしまってもいいというメッセージだったと、私は思います。
 安陪氏は大いに焚き付けたのですが、突然、「俺は、元々やる気はなかったんだ」とトランプ氏から梯子を外されました。トランプ氏が北朝鮮と直接交渉すると言ったときも、もちろん安倍氏に相談したわけではありません。ただ、その間もずっと日本は「朝鮮戦争終結宣言など絶対に出さないでください」と、アメリカに一生懸命水面下で働きかけていたわけです。
 なぜ、そうした働きかけがなされるのでしょうか。戦後の自民党中心の体制は、占領期の逆コース政策に歴史的起源があります。その逆コースがうち固められていった最大の要因は、朝鮮戦争の発生にありました。そう考えたとき、日本の戦後レジーム、「戦後の国体」の本質とは、朝鮮戦争レジームです。安倍氏から見れば、朝鮮戦争は「歴史的故郷」なのです。従って終結されたら困る、何がなんでも続けてほしい。終わるぐらいなら、戦争が再開されたほうがましだ、という日本の支配権力のいわば本音がここで表れました。
 それにしても、この日本政府の行動とそれに対する日本社会の反応には二重に驚かされます。まずはその非人道性。今戦闘が止まっているとはいえ、70年にもわたって戦時が続いているという状況に終止符が打たれるべきことは論を俟たないのではないでしょうか。その終結に協力しないばかりか積極的に反対するという行為の非人道性は、どれほど強調してもし足りないと私は思います。そして、二重に驚かされるというのは、日本社会のほとんど誰も、この非人道性に対する批判の声を上げないことです。
 私の知る限り、日本は朝鮮戦争終結に向けて協力するべきだと論じたメディアは、沖縄の新聞だけでした。平和国家という日本の建て前の内実は、ここまで崩れていることを思い知らされました。(p.184~6)

 はい、ゲーム。「卓越したリーダーシップと実行力」についてはどうでしょう。官僚の方々を人事による報奨で手懐け操り、自らの不法行為を隠蔽することを"リーダーシップ"、閣議によって憲法解釈を変えるなど、目的のためには手段を選ばない突破力を"実行力"と言えないこともありませんが、ほとんど詭弁ですね。

 というわけで、どう考えても安倍政権には有り余る負の遺産があり、氏を国葬にすることには疑問符が七つほどつきます。そもそも国家権力が個人を顕彰する国葬に私は反対です。ぜひやめていただきたい。

 なおこの問題が、国民を分断するという危惧を述べる意見もあるようですが、私は与しません。考えが違うからといって相手の全人格を否定したり、感情的で野卑な表現をしたりしなければ、活発な議論は社会を活性化し、成熟した市民への第一歩だと思います。

私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る。(ヴォルテール)

by sabasaba13 | 2022-07-31 07:53 | 鶏肋 | Comments(0)
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